作品担当 井上英樹です。
3/1の始発で京都に出張して参りました。
京都は緊急事態宣言が解除され、少し人手が戻ったように感じましたが、それはそれ。
関東から出かけた私は、細心の注意を払って各所に向かうのでした。
最初にお邪魔した、洛風林さんの展示会は今回は少し広い「ちおん舎」で行われ、予約制ではなく、フリーの入場でした。
今回は特に雨でもなく、雪でもなく、穏やかな良い天気。
心配といえば、入場最初の検温が「31度」で、熱が無さ過ぎたことくらいでしょうか。
発熱とは逆を行く発想です。
洛風林 「しじら織のコート地」
さて、今回の展示会は名古屋帯の補充と、「気の利いたコート」に焦点がありました。
今、当店では羽織ものが非常に注文が多くなっています。
着物や帯に比べると、どうしても市場に出る点数が少なく、お洒落なものや、気の利いたものは、なかなかに出会いが少ないのが現実です。
「良いコートは無いかな?良い羽織は無いかな?」
といつもアンテナを張っているのですが、やはり、避けて通れないのが「洛風林 しじら織コート」です。
これは、洛風林の堀江社長が長年懇意にしている北海道の取引先への御用の際、私物で制作したコートです。
それが、先方の目に留まり、試しに制作をしたところ、一気に定番になった、という逸話があります。
帯の制作を手掛ける機屋さんが、このコート地の制作も手掛けており、その織上がりの雰囲気の良さは格別。上品な艶と、合わせる着物を選ばない配色の妙。精緻な技法でありながらも、どこかふんわりと抜け感があるのは、さすがのコントロールです。
また、反物の段階で先に撥水加工がされているのもポイント。「上質な雨コート」もできてしまうのです。
今までは、帯だけにご縁をいただいておりましたが、昨今の「羽織ものブーム」を受けて、いよいよ当店でもご縁をいただく事となりました。
様々なお色があるのですが、今回「墨」と「銀鼠」を当店のベーシックカラーとしてセレクトいたしました。さらに「京紫」も追加、盤石の布陣です。
中でもこの墨色は堀江社長も御召しになっており 「なんかいいコートの人がいるなあ・・あ、社長じゃないですか!」と車から降りてきた社長を見て、実際にイメージが涌いたのも、貴重な経験でした。
墨色は黒に近い色ですが、この艶めきのおかげで暗くならず、女性を最もエレガントに見せてくれる色だと思います。
銀鼠はただのグレーではなく、奥深くに青や紫を潜ませたような奥深い透明感のある色が実に素敵。柔らかく上品な艶が映える、ありそうでなかった逸品です。
二点ともすぐに完売でしたが、そのあとすぐに届いたのは京紫。華やかで、寒色から暖色までをこなす、まさに和のベーシックカラー。
艶のある華やかさと、知性を感じさせる落ち着いたトーンの発色で、こちらも見逃せません。
洛風林 「ボハラの花」 膨れ織 九寸名古屋帯 瑠璃色
洛風林さんの数あるモチーフの中でも、非常に人気の高い「中央アジア系の草花」そして「ふくれ織」。
こちらは自身の資料館に収蔵する、ウズベキスタンの伝統的な刺繍を使った「スザニ」という装飾布の意匠を帯に昇華した作品です。
時々に配色を変えてリリースされていますが、どれも華やかで趣のある雰囲気が実に良い。
今回は、わずかに紫を奥に宿した青「瑠璃色」の地色にアレンジされての登場です。
ファッションの大きな配色トレンド「ニュアンスのあるくすんだ紫や青」を差し色にしてありますが、担当した堀江愛子さんいわく「いわゆるトレンドを追いかけて色はデザインせず、今あるコレクションを俯瞰して、この色が足りないな・・と自然に思いつく」そうです。
また、デザインの際には絵の具を使って絵を描くそうです。その絵から糸の色を起こし、また、グラデーションのある部分は、製織を担当する機屋さんとそのたびごとに具合を詰めるそうです。
その完成度はまさに絵画。美しく作りこまれた世界観に引き込まれます。
洛風林 「紗綾型に松」 九寸名古屋帯 黒
「雲の模様は好きですよ、言われてみれば、松が雲にも見えますね」
とは堀江社長のお話ですが、洛風林さんを象徴する?人気のモチーフ「雲」になんとなく、関連を思う松の意匠です。ふんわりと丸みを帯びた茂る松に、鈍く輝きを押さえた金糸と銀糸の松葉が映えています。
地には「紗綾型(さやがた)」卍を連続させた意匠で、着物や帯には多く見られる代表的なモチーフの一つです。
松と紗綾型。
伝統的なモチーフを配色と雰囲気のコントロールで、ここまで現代的な帯にできるのは、洛風林さんならでは。トゲトゲしておらず、気負いのない大らかさは余裕を感じます。
金糸使いの帯ですが、いわゆる「キラキラ」した糸ではありません。そのため、上質な織の着物から似合わせることができます。お役立ち度もかなりのものです。もちろん、無地やシンプルな付下げにも合いそうですね。
この帯はお太鼓柄のみのシンプルな作品があるのですが、私はしっかり柄のあるダイナミックな作品を選びました。
色々と話を聞くとわかることもある
洛風林さんはいつも朝一目がけてお邪魔するのですが、それは、鮮度の高い作品を見たいのはもちろん、制作に携わる超一流のデザイナーとしての堀江社長、堀江愛子さんから制作サイドの話を聞きたいからです。これは大変に貴重です。
私自身、オリジナルの制作も色々と携わっていますが、「どうやったら、良いものが生み出せるか」という問いは常にあります。
それは、独りよがりな「ものづくり」ではなくて、お召しになった人が心から嬉しくなるような、どこかほんのりと温かくなるような何か・・なのです。
洛風林さんの作品を見たり、触れたりする、さらに中身を「聞く」。この体験は常に新鮮さがあります。また、新しい視点を気付かせてくれる貴重な機会です。
コツコツと足を運びつつ、もっともっと勉強しようと毎回思うのです。
作品担当 井上英樹