作品担当 井上英樹です。
「工芸染織の魅力を伝えるお店にリニューアルするぞ!」と旗を掲げてから1年弱(?)段々と作品たちが届いています。
一つひとつアイディアを出して、作り手を訪ねて、制作の先生でもある問屋の担当者さんと打ち合わせを重ねて・・と限りなく贅沢な時間をつぎ込んでいますが、おかげさまで、発表した作品には非常に良い評価をいただいております。
世の中にないものを、そして、着る方が素敵になれるもの。ご依頼をいただく方の意見や視点を作り手にも循環させて、さらに良いご案内を目指しています。
千成堂着物店 特注の三才山紬 着尺「横段花織」が届きました
さて、今回ご紹介するのは、横山俊一郎さんの三才山紬です。これは、当店のオリジナル作品として制作をいただいた他にない特注作品です。
横山俊一郎さんは、お父様の英一さんが三才山の地で始めた紬織物「三才山紬」の工房の代表。実用品の中にさりげない美を見出す「民藝運動」に色濃く思想的なルーツをもち、「実際に着て楽しむ」紬織物を、奥様とお嬢様と一緒に制作されています。
工房の裏にある山に自生する草木で染める優しく透明感のある色、灰汁で練りストレスをかけない絹糸は、この紬だけにある世界です。
横山さんはいわゆる「作家先生」的なニュアンスは好みません。普遍的に素敵なものづくりへの真摯に静かに向き合っています。まさに、民藝的な「用の美」を感じさせます。令和の今にも、こんな穏やかでゆっくりした時間があるのか・・と想いが巡ります。
三才山紬は真綿紬を超えたエレガンスがある
三才山紬は緯糸のみが紬糸で経糸は生糸です。そのため、しなやかな織上がりと、深い光沢感が織上がりにあります。ふんわり、ほっこり真綿紬の良さと、エレガントな絹織物の良さ、特徴を併せ持つ次元の違う紬織物。それが三才山紬です。
三才山紬の帯を再構築した着尺
さて、今回の三才山紬の話をしましょう。
現在はコロナウイルスの影響もあり、中々工房へはお邪魔することができません。そのため、現物のあった作品からニュアンスをすくっていただき、ご制作をお願いすることにしました。
元になった作品は「三才山紬の帯」です。
先に書きましたが、横山さんの工房では奥様とお嬢様も作品を手掛けています。
真摯に作りこむ着尺たちにあわせて、帯など工房の世界観を広げる作品も発表されています。中でも「三才山紬の帯」は、奥様・お嬢様の感性が横山さんの仕事に加わって、新しい世界観を感じさせます。
今回は制作にあたり、その帯を再構築する方法をとりました。
具体的には地色や配色・花織の空間や雰囲気をマイルドにしてもらい、着る着物に変えたのです。
(※アドバイザーはいつものO社長です、先生ありがとうございます。)
制作はイメージだけをまっすぐ伝える、信じているから
横山さんは、本当に細かく縞や横段の幅を設計してくれます。テーブルの上で丁寧に丁寧に・・縞の幅を作りこむと聞いています。
あまり、制作に踏み込むと場を乱します。私は、イメージだけをお伝えするにとどめて、全てお任せすることにしました。
「ほんのりとした白系のグレージュ、奥にうっすらと温度のある地色」「花織があまりたちすぎない(主張しすぎない)ように」という点は、織物の雰囲気に関わるところですので、お話ししました。
出来上がった着尺は狙いの通り、実に繊細な設計の織物。ですが、地色と花織の雰囲気は優しく、品よくエレガント。男性的、数学的な世界と、女性的な感性の世界が高度に融合したのです。
三才山紬をコーディネートする
三才山紬のもつ澄んだ草木染の色合いを生かすのは、こちらもまた草木染の色。山形県の赤崩に工房を構える山岸幸一さんの帯を合せたコーディネートです。互いをひき立てあう染色の妙がここにはあります。
されど紬織物、ですが、個性的な三才山紬
以前、扱った「白よごし・浮織」も相当の完成度でしたが、今回の作品はまた違う世界観に完成しています。(上の写真は白の浮織、現在は完売しております)
いうなれば、前回の白は「すっきりした品の良さを追求したエレガンス」で今回は「ほんのりとした優しさを追求したエレガンス」、同じ横山俊一郎さんの作品ですが、個性はここまで異なります。
私は、作り手と実際に着る方の間に立って、色々と調整するのも仕事です。面白いことに、前回の白よごしと、今回の作品は似合う方も変わってくると思います。
手の仕事から生み出される工芸染織は、本当に奥が深くて・・楽しいですね。
今は、コロナウイルスでお邪魔できないのですが、必ず工房伺いますね。
三才山紬 特注制作も承っています
三才山紬は特注制作も承っています。ご興味ある方はお問合せください。あなたに本当に似合う、優しい紬を一から制作いたします。また、お時間はいただきますが特に価格は変わりません。
作品担当 井上英樹