遠藤聡子 小倉織帯地 「紫陽花」千成堂別注
前回「小倉織作家 遠藤聡子さんにお願いした帯は、なんと「日本伝統工芸染織展 入選作品」のアレンジです」に引き続き、当店のオリジナルとして細かい配色からご提案をいただき、他にない素晴らしいテイストが仕上がりました。
故・井上和子のアイディア「きれいめにコーディネートできる、遠藤さんの透明感ある色の感性が生きた帯」「青みの紫・白」から話ははじまり、実は候補になった配色案は2つありました。
A案とB案
大きな変更といえば、グラデーション的な配置をどこに出すか。
A案は私、井上英樹のイメージで中央を白く上げる方向。
B案は遠藤さんから届いたグラデーションと白をちらしたイメージ。
帯前を二つに折ることも考えると、散らしたB案のほうが望ましく、何より作家さんの意見に間違いはありません。作り手がこの世で一番最高にセンスがいいのです、これが絶対の真理。
「枯れ」のイメージ
配色のイメージは「遠藤さんの目に止まった、時間の経過したあじさいの花」です。
ご本人的には「こう言っていいのか・・くたびれたというか・・枯れたあじさい・・というか・・」ということでしたが、程のよく時のたったあじさいは色がこなれており、たしかに気負いのない透明感を感じます。
どこから配色を見つけるか、というのは非常に腕の見せ所なのですが、花の時間経過で切り取った配色は初めての経験でした。
(ちなみに、私の作品の配色は「ヴィンテージのスカーフ」や「良い色のコート」、「香水の箱」のように洋服の世界観からキモノナイズすることが多いです。自然の色味を見抜いて染織という人工物に落とし込むのは私的にはかなり難しい・・やっぱり、遠藤さんはじめアーティストが一番凄いのはそこ・・)
35〜40色の草木染糸
今回の記事は死ぬほど贅沢で豪華です。なぜなら、製作中のお写真が届いており、しかも使用許可が出たから。
美しい縞を描き出した経糸を御覧ください、めったに見れるものではありませんですよ。
「青紫はログウッド(中央アメリカ原産の木)、赤紫は紫根、グレーは栗の枝、茶はヤマモモとシイ、黄色はセイタカアワダチソウ、エンジュ。全部で35〜40色ぐらい使っていたと思います。」
正直に言って桁が違う。
これだけの彩色を適切に、心地よく、そして着て素敵に・・なんて言ったら最後、頭で処理できずに頭が爆発しますよ、私には無理。
感性、これは。
贅沢写真その2。
織り上げていく途中経過です。
綿の織物とは思えない強烈なしなやかさと、シュっとした風合いが小倉織にはあります。
それは経糸が細すぎて、物理的に増量しないと織ることができないほどの「細い綿糸」に全て集約されていると思います。
織物は糸、素材が大切。
織り上がるとこのような帯に仕上がります。濃い色がシャープに効いており透明感を引き締めています。
黒黄八丈とのコーディネート
帯としてコーディネートしていく以上、少しピリッとした雰囲気も欲しいところ、そんなリクエストにもお答えいただきました。
間違いなく地球上で質感の最も高い織物の一つでしょう、山下芙美子(黄八丈めゆ工房)さんの黄八丈とコーディネートしてみました。
途方も無い回数と時間を掛けて染め上げた泥染の酸化した黒は半端な帯を全て跳ね返す芯の強さがあります。
ですが、遠藤さんの帯はきちっと収まりました。
互いの印象を調和させ、上級者ならではのコーディネートに落ち着きます。
遠藤聡子さんにコンセプトの裏側をすくってもらう・・?
おかげさまで、たくさんの染織作品に出会ってきましたが、今回届いた遠藤さんの作品は格別です。
一つの理由として、織物としての完成度はもちろんなのですが、制作に入っていただく前に「コンセプト」の打ち合わせができたからです。
作家さんにも様々な個性があって、染織作品としての完成度に妥協はないが、コーディネートはあんまり・・という方もいらっしゃいます。
素材や染料、全てが複雑な染織の世界です、ある意味で着る段階は「制作における雑念」でもあり、そこを言ってもしょうがないことではあります。(むしろ言わないほうが良かったり、と。)
ですが、感性の優れた遠藤聡子さんは私と母の考えている「コーディネートしたらどうなるの?」というところにも十分お答えをいただける方だと思っています。
こんなコーディネートに合うように、というお願いの仕方はしていませんが、「透明感」「青みの紫・白」というコンセプトの裏側にある「旬の色味が欲しい」というところを、絶妙にすくって、制作してくれたのではないでしょうか?
母も生前よく言っていましたが「コーディネートのイメージが湧く作品とそうでない作品がある」というのは本当です。
今回届いた作品「紫陽花」は広げた瞬間にコーディネートが頭にどんどん湧いて来ましたから!
スタッフと一緒に、あれこれと着物や帯を選びましたが、それはそれは楽しく、悩みのない快適(?)な時間でした。
ぜひ、ご自身でも様々なコーディネートを頭に浮かべて、ご自身のスタイルを完成させていただきたい、そんな帯です。
遠藤聡子さん、いつも素敵な作品をありがとうございます!
またよろしくお願いいたします。
作品担当 井上英樹