世には様々な染織家さんがいて、色々な想いで作品をつくり、発表しています。
私が思うに、大きく分けると二つのタイプの方に分かれると思います。
自身の世界観を追求するアート志向の方と、プロダクト的に作品を捉えるデザイナー型の方です。
この「勝山さと子」さんという方は、どちらでしょうか?
私は、両方だと思います。
千成堂着物店 別注の紬着尺「エクリュ」
こちらは当店 千成堂着物店の別注として制作をお願いした紬着尺「エクリュ」です。
極細かい変形の市松柄をちりばめ、品の良い艶めきを演出した作品です。
糸は風合いの良い紬糸を使用、ふんわりとした雰囲気も両立しています。
今回の制作にあたり、とある素敵な袋帯の地色から着想をいただき、また、新しい視点の「エレガントな紬織物」として、糸や地風、厚みや透け感までも、作りこんでいただきました。
色味も「エクリュ」フランスの伝統色、ニュアンスのある生成色です。
「手織が一番!」の外の世界に生きる人
この着尺の最大の特徴は「極度に高い美意識の紬織物である」ということ。
通常、紬の織物を風合い良く織り上げるなら、手機(てばた)を選び、その手仕事の風合いを含み楽しむものです。
バッタンが良いか、投げ杼が良いか。
高機が良いか、地機が良いか。
といった、どれだけ手の風合いが残るかをシビアに見ていくのが普通です。
私自身も、「本場結城紬なら地機!」というタイプの人間です。
ですが、勝山さと子さんの作品制作では、手織りという点はそこまでの加点対象ではないのです。
「美しい布を、つくること」
この一言に全てがあるのですが、整った組織を均一に織り上げるなら、地機は高機に敵わず、また、高機は動力織機には敵いません。
整った精緻な表情の織物を世界観のゴールとする場合、動力織機を導入するのは、合理的な感覚だと思います。
曲者の糸を、どう織物にインストールするか?
使われているのは「表情の豊かな紬糸」、これがまた曲者です。
糸の節や不均一な風合いがその豊かな表情をつくりますが、基本的に、この種の糸は手機で気を使って、修正しながら織り上げるのが基本です。
ですが、それでは精緻な美しさのある織物には届きません。
あくまでも熟練の職人の手による都度都度の細かな調整と、圧倒的に落とした速度で製織するという、「ハイブリッド織物」的な感覚があってこそ、その世界観に手がかかります。
ただ高速に織り上げる、手間をかけずに楽をする。ということではなく、その精緻さを引き出す「手に勝る道具」として、動力織機を捉えるとは・・奥が深い。
彫刻をノミで彫るか、グラインダーやチェーンソーで彫るか・・一体、どこを目指すかで、道具が変わってくるのと同じでしょう。
あくまでも、高品質な西陣織プロデューサーとしての感性が生み出した、超高品質な新しい紬織物。
この精緻な紬の着尺は、なかなかに奥深いです。
感度の高い、モードとしての着物
勝山さと子さんは「華やかでお洒落」な方です。
少し大振りのイヤリングや、海外メゾンのジュエリーがぴったりと収まるような・・そんな印象です。
勝山さんとの打ち合わせではファッション界隈のトレンドの話や、洋服のコーディネートの話が各所に挟まってきます。
私は、着物や染織に詳しくなるだけでは、当店のお客様方には太刀打ちができないと考えています。
皆さま、着物はもちろんですが、お洋服も好きなお洒落上級者。
日本の伝統文化としてはもちろん、ファッション好きの最終到達点としての着物の話ができないと、なかなかに厳しい!
そんなこともあり、私は常に着物業界以外のファッション情報も意識して見ています。
「洋服感覚の着物」
という言葉がありますが、これは、「着物が洋服と異なるもの」という前提に立った言葉だと思います。
私には、「着物を大人のファッションの一大ジャンルにする」という目標があります。それは、着物と洋服のファッション感度が同じポジションにあるということです。
そして、それを実現するなら、勝山さと子さんの世界観は驚くほどぴったりと収まります。
この着尺についても、和の伝統的な色彩ではなく、フランスの伝統色「エクリュ」とあえて、定義したのは、そこに理由があります。
海外のトップメゾンとも肩を並べるモードな感性。
他に誰も真似のできない、独特な立ち位置です。
下記は洛風林の名古屋帯「フロリチカ」と合わせたコーディネートですが、「和」という世界を飛び越えた、新しい雰囲気が演出されています。
アーティストであり、デザイナーでもある
もちろん、染織作家としてご自身のこだわりやアートな感性がある方ですが、当方の考えや狙う方向を取り入れて、「やってみましょう」とデザインを起こしてくれたり、織機でサンプルを織ってくれたりします。
サンプルがあれば、作品づくりのキャッチボールが早くなり、完成度も飛躍的に高まってきます。
まさに、これは合理的なデザイナー的な考え方であり、染織作家としてはかなり異色ではないでしょうか。
アーティストとしての豊かな感性と、美しい布を最短距離で作り上げるスピード感。
私の思う現代的なアプローチの着物には、やはり、勝山さと子さんという人が、その感性が必要なんだと思います。
特注品への対応も可能、お手に取りやすい価格でもあります
こちらの作品はお好みのお色への別注も可能となっております。
「濃い色味でつくってほしい」
「この見本の帯揚げより、もっと白く」
「洋服のこの色から作れますか?」
など、ご意向をいただきながら、配色のデザインも承りますので、お問合せください。
また、この着尺は「手に取りやすい価格帯」であることも見逃せない特徴です。
勝山織物さんを訪ねたときに拝見した「秘蔵の着尺」があるのですが、そちらだと当店でご紹介する価格は優に100万円を超えます、糸も、手機の技術も全て、考えうる最高を採算度外視で作りこんだそうです。
ですが、こちらは比べて遥かに魅力的な価格を設定しました。
糸や製織の技法をゼロから見直すことでしかできない、絶妙のバランスとなっています。
さと子さんとの取り決めで価格については掲載しておりません、個別に回答しておりますので、お気軽にお問合せ下さい。
様々な帯に合うシンプルさ、風合いの豊かさ、上品な艶・・・心行くまでお楽しみいただければ、これ以上の幸せはありません。
作品担当 井上英樹 (コーディネート 井上和子 反物着装 マサエ)