作品担当 井上英樹です。
滋賀県の型染め作家 武村小平さんにお願いしていた「ヤマシャクヤク」の名古屋帯が届きました。
これは、通常の紬地ではなく「玉紬」と呼ばれる、シャリ感・透け感がある夏帯向けの生地にアレンジしてあります。
これには狙いがあります、そう、「単衣帯」への対応です。
武村さんは、当店がいわゆる染織・染色作家さんの作品を扱い始めてからもっとも最初のご縁です。
かつて展示会を行っていたギャラリーさんに、「すみません・・武村さんの連絡先を教えていただけますか・・?」と電話をかけにかけ、やっとご縁をいただいたことを鮮明に思い出します。
私は、時々思いついたことを武村さんにメールしたりしているのですが、やりとりの中で「新作があるので、ちょっと見てください」となり、作品を送ってもらいました。
着尺や新柄の帯など、素敵な作品がたくさんありましたが、中でも一番に目を引いたのは玉紬を使ったヤマシャクヤクの帯。グレイッシュな水色を垂れに染めた爽やかな作品でした。
その色柄はもちろん、シャリ感、透け感の程良い玉紬の生地が実に良いのです。
「武村さん、この作品、生地を変えずに少し色柄アレンジできますか?」
「できますよ、どんな感じですか?」
「えー、垂れをグレイッシュに、でも、寒くないような生成りを含んだ色に・・柄は・・・えっと・・!」
(それにしても、お伝えするのが我ながら下手・・熱意だけはある。)
「うーん? 」
例によって、エッセンスは伝えて、あとは武村さんの素晴らしいセンスにお任せしました。
作家さんの作品であって、決して自分の作品ではありません、必要以上に踏み込むのはNGと思っています。
さて、出来上がった作品は・・さすがの一言でした。
武村さんとしては「新しい配色」だったとのことですが、洒落た色味・的確な空間のデザイン・そして個性のある生地の地風と相まって、新鮮で、実にお洒落。
私は別注を考えるとき「人選」を特に強く意識します。
完成時のイメージが頭にある時は特にですが、誰に頼むべきかはすぐに思い浮かびます。
すっきりとしたキレのある型染帯、といえば私は武村さんがすぐに思い浮かびます。
今回の帯でこだわった「生地の風合い」「地色(垂れの色)」ですが、これは、帯の季節を拡大する効果を狙っています。
というのも、このヤマシャクヤク(山芍薬)という花は4-5月頃が開花の時期で、いわゆる季節感のある草花のモチーフです。
花のモチーフを使う場合、季節感に気を配ることが一般的には必要です。
そのため、開花の時期をすごく気にされる方が多いです、ですが、私はこの考え方には違和感があります。
特に、武村さんのように抽象的、グラフィックデザイン的な作品ならなおさらで、そこまで開花時期にこだわる必要はないでしょう。
(※ 満開のひまわりを写実的に描いた・・となるとさすがに冬にはきついか・・。)
特に、グレイッシュだったり落ち着いた色合いで配色してもらうと、芯を少し地厚なものや、カラー芯に変えることで、単衣(場合によっては袷にも!)対応することができます。
この玉紬の生地は透け感がありますが、撚糸によるしっかり感とシャリ感、さらに立体感もあります。
そのため、なお芯による季節の調整が可能です。
単衣の時期の拡大は一般的になっていますが、帯の時期の拡大というのも、もっとあって良いのではないでしょうか。
伝統を重視する厳正なお茶や式典は別として、私は洒落ものについてはもっと自由な季節感があっても良いと思っています。
今回、武村さんにお願いした帯ですが、色や柄をはじめとするデザイン的な価値観はもちろん、時期を広く、着物をもっと自由に楽しむというメッセージが込められています。
是非、お手に取って、素敵な着姿を大いにお楽しみください!
早速スタイリスト井上和子がコーディネートをしてくれました。反物の着装はマサエです。
ゆうなの灰で染めた本場久米島紬と合わせて、紬単衣も視野に入れたコーディネートです。
いかがでしょう、夏着物だけでは・・ないですよね?
作品担当 井上英樹