作品担当 井上英樹です。
最近は現物で仕入れるより、できる限りオリジナルを制作しています。
現代的でお洒落で、そして他にないニュアンスのあるもの、現物にはなかなか無いからです。
さらに、「伝統的な技法の良さを生かした、本格的な工芸品」という条件が加わってくると、なかなかなかなか…手には入りません。
さてさて、それは置いておいて 。
仕事柄、様々な作家さんにお会いしますが、求道者のごとく創作に取り組む方はかなりの確率で「古典裂」に造詣が深いです。
といいますのも、優れた職人が一つひとつをその手でつくりあげた裂には、美しい気配が感じられます。空気が濃いというか、密度があるのです。
そんな古典裂に魅せられた作家は少なくありません。ある意味の目標であったりもします。
その気配のようなものはもちろん、織物だけではなく、染物にも漂うものです。
美しい手仕事の結晶「手描の更紗」という染物には、確かにその気配が感じられるのです。
さて、今回 江戸更紗の大家「大浦紫山」工房から届いた手描きの更紗ですが、こちらは蝋置きから染めまでを全て手描きで行った作品です。
ジャワ更紗とは異なり、友禅的な美とどこか粋でスッキリとした空気が溶け合う、他にない洒落た作風です。
今回、過去より制作されたアーカイブから柄を選び、地色と差し色は雰囲気を伝えて、オリジナルの一点ものとして創作いただきました。
地色は「白よごし」、「緑の中に、青の花が効く」、「筒書きの金彩は派手にならないように、できるだけ繊細に、できるだけ多く」とお願いして、じっと待つこと3か月。
本当に素敵に出来上がってきたのです。
地色は生成りにほんのりと桜色を足したような絶妙の地色に、繊細に描かれた花々は楚々というより、躍動や生命力を感じさせます。
金彩は少し落ち着いた色味を選んで、繊細に。全てに置かず、陰影のように品良く。
その細かく、細い線は手描きの味わいを残し、実に高級感があります。
躍動という言葉使いましたが、粗雑や子供っぽさではなく、あくまでも背筋の伸びた大人の空気が漂っています。
選んだ生地は滑らかな紬地、染めの映えもよく、また、帯に風合いを演出してくれます。
当然、いくらなめらかと言っても節のある紬地に、ここまで繊細な技法を施すのは至難の技でしょう。
この作品をはじめて見たときに私が感じたのは、美しい古典裂を見たときと同じような、言葉では言い表せない複雑な感動でした。
焚き込めた香のような、自然のものに人間が一手加えた、何か素敵でいい香りのしそうなもの・・言葉では難しいのですが、確かにそんな空気を感じたのです。
そして、偶然かそのナチュラルな色味は、今注目を集めるトレンド感のある配色に仕上がっていました。
古典にも通じる美、現代にも通じるトレンドの妙、この二つ素敵はきっと近いところにあるのかもしれません。
手で丁寧に作られたものには独特の「素敵」が宿ります。
この令和の世に、そんな作品にまだ出会える、着て楽しめること。
そんな幸せをご紹介できるのは、とても光栄なことです。
作品担当 井上英樹