こんにちは、作品担当 井上英樹です。
無事に2020年の仕事も無事おさまり、メールの対応や事務所の片付けを、のんびりとしています。
毎年、このタイミングでコーディネート担当 井上和子と一緒に考えた「流行のコーディネート」を発表することにしていますが、今回はどうも大きな変化を発表することになりそうです。
着物コーディネートが2021年に大きく変わる
着物コーディネートは流行があります。時に「着物には流行がない」といわれることがありますが、それは決してありません。緩やかでも、その流行は移り変わっていきます。
日々の仕事の中で、お客様からいただく依頼を一つ一つと繋げていくと、着物コーディネートの流行のアウトラインらしきものが浮かび上がってきます。
今回、そのアウトラインは今までに比べて、大きく異なるものでした。
2021年 着物コーディネートが「パーソナル・コーディネート」へと深化する
今まで、着物コーディネートというと「帯まわりコーディネート」や「カラーコーディネート」が主体の部分的なものでした。
「グレイッシュな色味→明るめの色味へ」「昔の着物が今っぽく見える小物のコーディネート」・・それが、着物コーディネートのすべてのように扱われてきました。
現実問題として、当店でも小物だけのコーディネートの依頼をいただくことは多く、お客様の中でも、それが当然のようになっていました。
しかし、11月以降くらい?からでしょうか、私たちへの依頼は明らかにニュアンスが変わってきました。
「わたしに本当に似合う着物や帯を、勉強しながら、見つけたい」
「肌の色、髪の色を踏まえて、一番似合うものはなんでしょうか?現代のファッションとして」
「〇〇の仕事をしていて、海外でのレセプションで着られる、喜ばれるような・・」
そうです、自身のライフスタイルや自身の個性に合わせて選ぶ、そんなニュアンスの依頼が急増しています。
主役はあくまでもお客様自身である「私」、アイテム志向というより、人間志向。
そして、共通するのはコーディネート範囲が全身を超えた、思想であるということ。
そもそも、カラーコーディネートや小物のコーディネートは、着物コーディネートの一部分でしかありません。冷静に考えて、その一部分だけが着物コーディネートのすべてのように言われていたのは、不思議でさえあります。
昨年までは、「トレンドアイテムは〇〇」のような言い方ができたのですが、今はあまりにも、個人個人に合わせた注文が多く、一つのアイテムに絞っていくのは非常に難しくなってきています。
あなたに合わせた、特注品
実際、私の仕事でも「特注品」のニュアンスを感じる仕事が急増しています。
いろいろな作家さんと取り組んでいる「千成堂着物店 別注」はもちろんですが、お客様に合わせてデザインを制作する特注品への依頼も目に見えて増えているのです。
「本場結城紬」「喜如嘉の芭蕉布」「型染の帯」などなど、織物・染物ともに、自身の想いや個性に合わせた作品をじっくりと楽しみたい、そんな方が増えています。
ですが、このあたりは、大いにお客様のタイプによると思います。
例えば、催事や展示会でわいわいとお買い物を楽しみたいタイプの方や、権威のある老舗やデパートでのお取り寄せを好まれる方には、「じっくり作りこむ」ようなお買い物の仕方はきっとじれったく、性に合わないでしょう。
私たちは、一人一人に合わせていくことが仕事の主軸です。一人一人に徹底的にヒアリングを重ね、ライフスタイルや、お好みの把握からはじまり、そこから提案や制作が始まります。(時に、私たちへの相談は”案件”とも称されます。お客様のことは”クライアント/依頼人”とも呼ばれます。)
視点を変えれば、当店の主義や哲学が、お客様へ伝わっているのかな、という理解もできます。
ですが、雑で場当たりのお買い物よりも、自身を輝かせる真のお買い物の愉しみへと、求める体験が変化しているのではないでしょうか。
2021年のトレンドアイテム は「足元」にあった
さて、トレンドがパーソナル・コーディネートへと向かう今、確実に浮かび上がるトレンドアイテムが一つだけあります、それは「足元」、履物です。
昨年を振り返るとお草履や下駄をオーダーされる方が、相当に増加しています。
オンラインでの注文も加速し、とある有名な歌手の方や、女優の方からも私宛に制作依頼が届きました。
着物や帯のオーダーメイドはなかなかに全体像が見えにくく、発注へのハードルは高いと思います。ですが、履物は比較的オンラインでも完成のイメージがしやすく、頼みやすいのではないでしょうか。
素材・色・形・高さ・鼻緒のすげ具合・・・すべてをカスタマイズできる当店の草履の人気は、先にまとめたパーソナル・コーディネート志向ともリンクしていると思います。
2021年 流行の着物コーディネートを手に入れるには
トレンドアイテムが不在の今、流行の着物コーディネートを手にするのは、少しハードルが上がったのではないでしょうか。
ですが、これは面白いことです。新型コロナウイルスの影響で外出やイベントが制限されているなか、自分自身へと意識が向く、強制的に向かされる。貴重な機会と時間をもらったと考えることもできます。
年末にかけて、当店でも秘蔵品級の作品に関連した依頼も多くいただきました。そのすべての依頼が「ご自身との向き合いや、人生の質の向上」を感じる、心揺さぶられる依頼です。
年末、某雑誌の企画でスタイリスト 着付け師のOさんと打ち合わせをしました。その時に、お互いの近況報告で小一時間盛り上がりましたが、とても興味深い話を聞きました。
「着物は衣食住ではなく、人生を豊かにするアートに近いもの」「着物は動作を制限されるからこそ、美しい所作が生まれる」「コロナウイルスの流行で生まれた時間で、向き合うことが増えた」
この話は、難しさと前向きさが同居した、自身の心の奥から湧き上がる何か、なのでしょう。私自身も感じていたことを紐解かれるような不思議な感覚でした。
2021年の流行の着物コーディネートをアイテムから定義するのは、もはや本当に難しいです。
しいて言えば、「自身の素敵に向き合ってみること=パーソナルコーディネート」と「足元」。
物質的なものよりも、思想や哲学自体が流行していく、私はそう考えています。
占星術に関した、少しスピリチュアルな話題ですが「風の時代」という言葉も聞こえてきます。
ここでは詳しく書きませんが、数百年周期で時代は変わること、そして、地の時代と呼ばれた「物質的な価値観」の時代が終わり、知性や個性のような「目に見えないものの価値」へとシフトしていく・・そんな内容だそうです。
ITの世界では、顧客体験(UX)重視がだいぶ前から言われていますし、商売でいえば「モノよりコト」の体験型へと移り変わっている印象があります。
少し話題は違うかもしれませんが、着物コーディネートにも、ある種のパラダイムシフトを感じざるを得ません。
2021年は、私が考えるには着物コーディネートの大きな転換点。そんな、大きな視点を持って、このテーマに関わっていきたいと考えています。
さて・・今年は色々ありました、本当に色々ありました。
冬の寒さの日々ですが、きっと春も少しづつ近づいてきています。皆様、今年も大変にお世話になりました。どうかご自愛の上、良いお年をお迎えくださいませ。
作品担当 井上英樹
※お正月どこかのタイミングでコーディネート担当 井上和子の考える「2021年流行の着物コーディネート」も公開の予定です。お楽しみに。