2020年11月2日 始発の電車で京都へ出発。毎度の私です。
こんにちは、作品担当 井上英樹です。京都は通例として「月初」に問屋さんやメーカーさん、ブランドさんの展示会が行われます。一度に様々な作品を見ることができるので、私はだいたいこのタイミングで京都に仕入れに行くことが多いです。(作家さんとの打ち合わせなど、月中などに行くこともあります)
新型コロナウイルスの影響もあり、今、なかなか商売は厳しいです。そのため、本当に力のある素敵な作品や、こだわりの別注品に限定して、今は制作や仕入れの仕事をしています。
月に一度程度、京都から問屋さんがお店まで来てくれることも多く、実は、出かけなくても仕入れという意味ではそこそこ可能です。ですが・・私は京都に必ず足を運ぶ理由があります。
「工芸帯地 洛風林」の引力
中でも、私にとって大きな理由の一つ、「工芸帯地 洛風林」さんの新作を見たいからなのです。
ご存じの通り、洛風林さんといえば、当店でも多くの引き合いをいただく、人気のブランドの一つ。
美意識の高さと、女性の感性をくすぐるお洒落なテイストは、その素敵さで他の追随を許しません。
社長である堀江麗子さんは初代から数えて三代目にあたります。
初代である堀江武さんは世界各国をめぐり集めた、異国の裂をもとに意匠を起こし、共に織物を研究する一流の機屋さんに制作を依頼する形で、洛風林というブランドを興しました。
洛風林同人会と呼ばれるそれには、北村武資さんの名前や、勝山織物の勝山実夫・勝山嘉夫さん、桝屋髙尾の高尾拡さん、帯屋捨松の木村登久次さんなどの名前を見ることができます。
時はたち、堀江麗子さんが現代の女性としての感覚を、その意匠に込め、さらに進化。
歴史と遊び心、時代の感性が融合した、とてつもなく洒落た工芸帯地ブランド・・それが、洛風林さんです。
雨男 井上英樹がゆく
さて、私はとっても「雨男」なのです。
昔から面接の時や、新しい取引先を訪問する時、何かがはじまる時には、必ず雨が降っています。
今回、京都に向かうとき、朝の川崎には晴れていましたが、京都につく頃には無事に雨模様・・。
こんな時には、きっと何かが起こるのです。
工芸帯地 洛風林 本社にて
さて、洛風林さんに無事に到着。
堀江麗子社長、担当のNさんと一緒に説明をいただきながら、一つひとつ見分けていきます。
複雑な話なのですが、コロナウイルスの一件もあり、春に発表できなかった作品もあるとのことで、今回はいつもよりボリュームがあったような気がしました。
風合い、配色、図柄、どの作品も愛らしく、お洒落。その中から、当店の感性に合うものを選ぶのは、なかなか難しい仕事・・。ですが、わくわくします。心が沸くような帯に出会いたいから。
一生懸命考えて、小一時間で名古屋帯3点と袋帯1点を厳選させていただきました。
題して「霜月のコレクション」、秋色の作品たちです。
洛風林 「桃山唐草文」袋帯 / 塩蔵繭糸使用
大体、京都の土地勘が薄い私、約束の時間よりなぜか15分早くついてしまいます・・。
雨も降っていしましたし、準備中にも関わらず中に入れてもらえました。
袋帯たちを堀江社長が整えていました所、一際に上品な艶をたたえた袋帯が目に入りました。
それが、こちら「桃山唐草文」です。
配色は絶妙なニュアンスカラー、渋く抑えた箔糸もあいまって、高級感のある作品です。
特に、その控えめな艶に魅入られましたが、これは「塩蔵」と呼ばれる、塩につけて繭を保存する手法で取られた糸によるもの。
柄を織り出す絵緯の艶はもちろんなのですが、織物を見分けるのは無地場の美しさ。薄いクリーム色の無地個所にどことなく、さりげない艶があります。
また、極軽い織上がりも特徴。まさに、宝物のような極上の「裂」です。
様々な作品が発表される洛風林さんですが、明らかに力の入った、秘蔵の作品が存在します。
この袋帯も、おそらく、そのクラスの作品で間違いないでしょう。
あっさりとした、ですが、上質な付下げや、上質な織りの着物の格上げに、是非、ご愛用いただきたい完成度の高い逸品です。
このクオリティーには間違いなく、震えます。
デザインや配色はシンプルですが、実に迫力があります。京刺繍の付下げに合わせたコーディネートで写真を撮影致しましたが、織りの着物にも合いそう。
洛風林 名古屋帯 「花十字文」と「福花文」
今回、定番のふくれ織や飛天錦に加え「紬地の帯」が発表されました。
洒落感のある作品が揃う紬地ですが、洛風林さんの紬地は一味も二味も違います。
経糸に控えめな節のある紬糸を使うことにより、味わいの深さと、どこか品のある表情を両立、粗野でない、極上の紬帯です。
また、その柄のセンスや配色のセンスは最高。実にお洒落な作品たちでした。
中でも、今回は秋色のお洒落な二点を選びました。鍋島緞通からインスピレーションを受けた「花十字文」と鳩を花の形に配した「福花文」、どちらも素敵。そして、この抜け感が・・たまらない。
横山俊一郎さんの工房から届いた、白の三才山紬にあわせた最新の提案。
お顔映りも良く、冬の空にも寒々しくない、あたたかい白の紬に実にお洒落に映えます。
また、紬地の帯を超えた格調を生かして、色無地とのコーディネートもいかがでしょうか?
フォーマル対応の帯締めと帯揚げをあえて合わせた、スタイリングです。
洛風林 「流雲文」 名古屋帯 ふくれ織
洛風林さんのデザインで定番に人気がある「雲」をモチーフにした作品。
もこもこと沸き上がる雲の輪郭や、抽象化された雷など、どの作品も愛らしい。
また、雲の模様は「瑞雲」とも呼ばれていて、沸き上がる姿に吉祥のイメージもあります。この時期にふさわしい感覚です。
今回、発表されたのはふーっと流れる雲をデザインした「流雲文」。
くすみ感のあるニュアンスカラーのピンクの地色に水色、グレーを配色した、強力にお洒落な作品!ラグジュアリーブランドのコレクションたちにも、ひけを取らない完成度。さすがの空気感です。
本当に素敵、まさに今のコーディネートができる帯だと思います。
絓引き小紋と合わせた、甘めのニュアンスカラー・コーディネート。
ピンクと言っても相当の幅がありますが、この帯は本当に絶妙のお洒落感です。
11月の洛風林さん、やっぱりお洒落で・・素敵です!
今回も洛風林さんの作品にご縁をいただきましたが、いつもながら、その感性と視点には唸らされます。
着物や帯は、和の世界のものです。それはそうなのですが、現代を生きる女性のファッションには、それだけでは、物足りない。
「装う」というのは、本来とても楽しく、心豊かにしてくれるもの。
今回の洛風林さんの帯たちには、何か、明るい日差しのような気を感じます。
私は雨男ですが・・きっと、その先には良い陽気があるのではないでしょうか。
今回の作品たちは相当に良いです。まずは、じっくりとご覧いただきますよう・・。
作品担当 井上英樹