こんにちは、コーディネート担当の井上和子です。
芸術の秋、着物を着て絵画や、工芸品などをゆっくり鑑賞するゆとりの時間を持ちたいものですね。
そんなことを思っていたら、絵画に関係があり、特に深く印象に残っている一本の染め帯を思い出しました。
かつて取り扱いました、染色作家 仁平幸春氏 / Foglia(フォリア) が、洋画家 佐伯祐三氏の代表作『ガス灯と広告』のオマージュで制作した名古屋帯です。
これは、今までの染め帯の概念を見事に覆す、驚きの染め帯でした。
一般的に染め帯といえば、塩瀬などの生地に、季節感のある花鳥風月の柄が描かれた、日本画的な「静」の世界観がものがほとんどです。ですがこちらは洋画の「動」の世界観。「動きのある、荒々しいタッチ」とも評される線が実にエネルギッシュ。
ちなみに、こちらは手描きの染め帯です。近くで見ても油絵のような質感があります。どのように描かれたのか制作秘話など伺ってみたいものです。
資料によりますと、佐伯氏は大正から昭和初期にかけて活動され、そのほとんどをパリで過ごされ、パリの街角や店先、文字の多い広告などを題材にされています。
ただ、三十歳の若さで夭逝されていますので、画家としての活動は、六年ほどだとか。
帯の作家、仁平幸春氏の染め帯は、型にはまった和の世界に囚われない、現代から未来を見たファッションとしてのきものを制作されているように思います。
そこに、短い生涯をパリの庶民的な風景の中に注がれた情熱的な絵画が融合してこのまったく新しい染め帯という作品が生まれたと思います。
こちらは、模写ではありませんので、原画と同じではありません。ですが、わたしはパリジャンヌの赤のドレスが美しく印象に残っています。仁平先生もそこに拘られたのかも。
余談ですが、とても問い合わせの多かった帯です。印象として、主にクリエイティブな仕事をしている方に人気がありました。
この帯を締めてモンパルナスの街角を歩いたらどんな反応があるでしょうね、想像がふくらみます。
これからも着物が発展していく為には、何が必要なのかと常に考えている私達にとって、このような新しい感性から生み出された帯が、受け入れられた事は心強い思いがいたしました。
私も常に新鮮な提案が出来るように努力していきたいと思います。
コーディネート担当・スタイリスト 井上和子