三才山紬のコーディネートを解説します。コーディネート担当は私の母、おなじみ井上和子です。
三才山紬は長野県の染織作家 横山俊一郎さんの工房が手掛ける紬です。ご自身で維持管理される山で採集する草木で染めた優しい色合いと、手紬糸と絹糸で織り出す風合いの良さで、通から厚い支持を得るお洒落な紬です。
三才山紬は横山さんのお父様、英一さんが民藝運動の父 柳宗悦さんのいう「無名の職人の手により、生み出された日常品に宿る美しさ、用の美」の世界に深く共感し、染織の道を進んだことがはじまりです。日常品という言葉を使いましたが、「気負いがない美しさ」は三才山紬と用の美の共通点でもあります。その着心地の良さや、奇をてらわないさりげないさ・・まさに愛用できる素敵な紬です。そして、どの作品も帯合わせが楽しい、コーディネート向けの紬着物です。
さて、今回ご紹介するのは栗と玉葱で染めた糸で縞を織った三才山紬です。三才山紬の特色として、草木染の色に濁りが無いことが言えます。この縞も「暖かい生成りの白」と「澄んだ飴色」が隣り合い、溶け合っています。遠目には、ほんのりと明るい無地にも見えますが、それはこの紬だけが持つさりげなさの妙でしょう。
さて、今回、そんな紬をコーディネートしてみましょう。母和子は、この紬に合う帯として、しょうざんの更紗柄帯を選びました。これは、京都の鷹峯に工房を構える名門「しょうざん」さんの作品です。当店では非常に人気の帯で、多くご縁をいただいています。その歴史で制作された膨大なアーカイブの中から、一点を選び抜き制作をお願いしています。
しょうざんといえば生紬ですが、これも生紬の帯です。いわゆる、手描き更紗ではなく、工数を押さえた型染の更紗です。その分、お値打ち感があり、比較的手に取りやすい帯に仕上がっています。ですが、生紬の持つ質感が、はっきりと言って「お値段以上」な雰囲気を感じさせます。これは作品づくりの上手さだと思います。
帯締めは和小物さくらさんの笹浪組。これは生成のなかにしゅしゅっと入った濃い色の線が素敵です。極控えめに箔の糸も使っており、シンプルな付下げなどにも使える帯締めです。帯揚げは渡敬さん、これはぼかしが印象的で、はんなりとした雰囲気が魅力です。
お気づきかと思いますが、帯回りの小物は、紬のテイストに比べると少しフォーマル感のあるものを選んでいます。本当なら、ちりめんの無地やゆるぎ帯締めなど、引き算した洒落ものを合わせるのがセオリーだからです。
ですが、これは三才山紬としょうざんの生紬帯がもつ「底から光るような明るさ・質感」を感じ取って、コーディネートしているからなのです。最近、いわゆる「格」というものがつかみにくい、着物や帯が発表されています。例えば、「紬の洒落た付下げ」「艶のある改まった雰囲気の紬」などです。
この三才山紬は紬糸は緯糸だけなので、経緯が紬糸の紬（結城紬など）と比べると、どこか改まった雰囲気も感じます。更紗という柄もルーツを考えれば王族の象徴だったりもしてしまうので、そこまで普段使い・・という背景だけではないのです。
私たちの提案としては、紬でもセミフォーマル系の小物を合せて帯回りコーディネートを作ることはできる。ということです。その場合、織物の持つ雰囲気やバックグラウンドを感じる必要はありますが、基本的には雰囲気勝負。抜け感というか、はずしというか。そんな、ファッション的な感性で着物コーディネートを楽しみたいですね。
この三才山紬もしょうざんの帯も、この時期にはぴったり。ぜひ、お洒落にこの季節を楽しんでください。
作品担当 井上英樹
