手仕事ファンはもちろん、工芸紬ファン、一生ものをお探しのファッション好きからも熱い視線を浴びる「山葡萄蔓のかごバッグ」。純国産や外国製など、色々な作品が出回っており、混乱気味な方も多いと思います。
今回、奇跡的に入荷した「出羽の織座」さんの山葡萄蔓のかごバッグはそんな色々を吹き飛ばす、まさに究極の作品です。
以前も山葡萄蔓のバッグは出羽の織座さんから取り扱いを許されていました。ですが、蔓の採集から、編みまでを手掛ける職人さんが、他界してしまったこともあり、以前制作した収蔵品を譲ってもらって以来、二度と入荷は不可能だと思っていました。今回、秘蔵の品の蔵出しがあり、ご縁をいただいたことが、あまりにも奇跡です。
まず、良質な山葡萄蔓のバッグは、蔓の細さが異なります。このバッグは「細蔓」と名前が付けられていますが、そもそもの蔓の細さが細いものです。6月の梅雨の合間の晴れ間に山に入り、山葡萄の蔓をある程度の量採集。これは日持ちがするためとっておき、制作のタイミングで水や湯で戻して裂きます。この時に、細い蔓に裂ける良質な蔓か、また、その技術が職人さんにあるかで、バッグの編み上がりの質が変わってきます。
蔓は養殖ができませんので、気候の変化など外的な要因で、その質は変化します。このバッグのように少し赤みがかった蔓で、かつ、細いもの・・となると、今これからは蔓自体を手に入れることが難しいそうです。
そして、その蔓は柔軟です。このバッグも手で押してみるとわかるのですが、編み上がりが柔軟でコシがあります。あまり質の良くないものですと、編み上がりが硬く、風合いと使い心地に差が出ます。
その蔓の良し悪しはもちろんですが、このバッグで最も強調したいのは「優れたデザイン性」です。
桜の木の皮でぐるりとラインを入れ、巾着は出羽の織座さんを象徴する「しな布」をつけてあります。このしな布自体も、胡桃で先染めした糸を使い、縞を織り出しています。この二つが非常に良いアクセントになっています。素朴な仕事ではありますが、明らかに、澄んだ工芸的な感性があります。
私のルートでも、様々なかごバッグを扱うことは可能です。ですが、この出羽の織座さんのバッグに出会ってしまってからというもの、中々、心震えるような作品には出会えていません。
もとは農閑期の生業だったものが、今や工芸的な価値のある作品に評価を変えています。
このバッグのようにさりげなく素朴で、しかし、その中に工芸的な味わいのあるもの。そんな世界にこれから、ますます出会うのが難しくなっていくような気がしています。
このバッグについては、もうおそらく入荷することは無い激しく貴重な作品です。ですが、その貴重さだけではなく、この、素朴な美しさに触れて感動していただきたいです。
作品担当 井上 英樹