私、井上英樹は着物の仕事をする前は、海外の高級ブランドのヴィンテージを扱う、バイヤーでした。
私のクライアントはイギリスでVOGUEに掲載されるヴィンテージショップなど。その時にはシャネルが非常にオーダーが多かったのですが、やはり、こだわるオーナーのお目当てといえば、そう、エルメス。
ケリーバッグやバーキンなど最高級のレザーグッズが有名ですが、映画を超えるとも称されるデザイン性と、最高の品質を誇るスカーフ「カレ」も人気でした。
数限りなくカレも見てきましたが、いつか、この世界観をどこかで再表現したいと思っていました。
経験を活かす、スカーフモチーフの帯
さて、今回ご紹介するのは、型染め作家 関美穂子さんの名古屋帯「猫の庭」。
私、作品担当 井上英樹がモチーフを選び、関美穂子さんにオリジナルの配色をお願いした限定作品となります。
すわっていたり、もこもこ歩いてみたり、庭に飛び出してみたり・・猫が大好きな関さんの思い出が詰まっています。ちなみに、私の家にも三毛猫がいます。
私のアイディアから発想をいただく
この配色は私のアイディア「スカーフから配色を見つける」に、関美穂子さんが応えてくれたものです。今回の着想はエルメスのスカーフからではありません、制作に向けて、アンティークやドメスティックブランドなど、数限りないスカーフの資料を見返しました。その中から見つけた配色です。
洋服感覚のコーディネートを実践する帯
そもそも、私たち千成堂着物店の根底にあるのは「お洒落で、洋服の中でも浮かない大人の着物コーディネート」です。これを考えたときに、まず思ったのは、現代のファッションから発想して着物を作ることでした。
もちろん、洋服の感じをそのまま着物に持ち込んでも、私は全く素敵とは思えない。あくまでも、エッセンスの抽出で留めておきます。
くすみカラーの帯
今、配色のトレンドとして「ニュアンスカラー」や「くすみ系」があります。
着物や帯にこれを生かすことはできないか・・?といつも考えていました。
今回はニュアンスカラーのスカーフからの配色です。結果として今風のニュアンスが色に表現できました。
猫の庭、という作品は、以前濃い地が入荷していました。下記の作品です。
それを見たときに、帯のタレの部分が非常にこっくりと、いい具合でした。それは、染料を重ね引きして生まれる風合いだったのです。
重ね引きで生み出した大人の表情
今回の作品についても、重ねて色を引いてもらい、タレにはこっくりとした雰囲気を出してもらいました。
これは猫という愛らしいモチーフに、少し緊張感を持たせてくれます。愛らしいだけではなく、大人にも似合うように、という工夫です。
関美穂子さんの世界観はどこかポップで、強い線が特徴です。このポップさを保ったまま、大人の女性が照れずに締められるように落ち着かせる。そんな、狙いもありました。
結果として、関美穂子さんにお願いしたのは大正解。とてもとても楽しくて、大人の女性に似合う帯ができました。
関美穂子さんに別注した「猫の庭」の帯を久米島紬とコーディネートする
早速、帯と着物をコーディネートしました。担当はおなじみ私の母 井上和子です。
すっきりした絣柄の本場久米島紬と、こちらの帯を合わせました。
今までは無地感の着物コーディネートがお洒落のすべてでした。ですが、このように、色と柄のトーンを合わせれば、柄×柄のコーディネートも大人っぽくてお洒落です。むしろ新鮮です。
この帯は白地を基本にしました。そのため、濃い色味の着物にも合います。総柄のクラシックな紬にも絶妙なアクセントを加えます。
例えば本場結城紬や大島紬のリユースも甦りそう。
使いやすく、洋服感覚のお洒落な帯は、着物をお洒落な大人のファッションに変えます。
当店のオリジナル色「関美穂子 猫の庭」の帯はそんな思いを込めた、自信の逸品です。
作品担当 井上英樹