少し前の話ですが、沖縄に行った際、喜如嘉に立ち寄り、平良美恵子さんに帯をお願いしてきました。
その時は、喜如嘉と長年のお付き合いがある、問屋さんの社長と一緒にお邪魔したこともあり、若輩の私ですがかなり無理を聞いていただきました。
平良美恵子さんは、人間国宝 平良敏子さんの義娘であり、芭蕉布という文化を世に広めた立役者でもあります。
もちろん、人間国宝である平良敏子さんにもお会いして来ましたが、これからの芭蕉布を考える意味で、平良美恵子さんと制作ができたのは、とても意味のあること。
私がお願いをしたのは「無地・生成り・ヤシラミー」の単純な作品でした。
ですが、届いたのは想定を越えた、あり得ない完成度の作品です。これは感動です。「糸の質感が味わえる、無地感のものが良い」と私が言ったところから膨らませてくれたのです。
藍と茶、リズミカルに織り出される繊細な配色は、ただの無地感を越えています。染織の面白みが詰まった、心踊る作品です。
芭蕉布というのは、芸術性だけではなく、文化的な価値も高い貴重な織物。様々な取材の申し込みもあったようで、どことなくせわしない雰囲気でした。
その限られた時間の中、芭蕉布協同組合の理事長 平良美恵子さんがお時間を割いて下さり、当店の帯として「ヤシラミーの変形柄」を制作してくれたのは、まさに得難い経験です。
しかも、「糸の質感」というキーワードからでしょうか、多色を寄り合わせるムディー糸を、経糸に入れてくれました。
この作品おいては藍と生成りです。二色がくるくると絡み、地に豊かな表情を生み出しています。
そんなこと、考えもしませんでした。奥深い技法に「気がつきなさい」と教わった気分です。
そして、先染めの糸を煮る「煮綛」の技法でつくられた色味も、奥行きが感じられます。
あの時、沖縄の独特な時間の流れる夕方。私との会話の中から発想した柄を鉛筆で描きとめる。そんな時間が静かに流れました。私の何かが変わった瞬間でした。
糸芭蕉という植物から、糸をつくり、織り上げる。
この素朴な仕事から、ここまでの芸術性と情緒性を生み出すのはとてつもないことです。
希少さだけで話すのはあまりに惜しい、まさに名作。そう言って間違いないでしょう。
純粋に感動できる作品です。
着物と合わせてみました。担当は井上和子です。野村半平工房「本場夏結城」の白と合わせました。
これは「夏」と名が付きますが、ここまで高温の日が秋まで続くとなると、早い時期の秋単衣として、着られても問題ないと思います。もはや、感性で選んでください。この着物は最高級品の中の最高級品、総詰めの亀甲です。半端な帯では太刀打ちができません。
しかし、この芭蕉布なら、全く打ち負けず最高の相性を見せてくれます。
最高の着物を引き立てる、最高の帯。
そんな、語りもぴったりです。
作品担当 井上英樹