古き良き雰囲気はありますが「今、着たい」着物ですか?
産地の染織に感じるこの疑問はどこまで行っても私を悩ませます。
じゃあ、仮にですよ?
思い切り「今、着たい」をやってみたらどうなると思います?
千成堂着物店別注 本塩沢着尺 「四色乱絣」

経糸に先染めの絣を四色ランダムに降らせました。展示会で見た横段の帯の配色をベースに、当方のアイディアで新たに創作をいただきました。

初めてではありませんが、新潟県の産地問屋さん、東京の問屋さんと一緒に企画。やまだ織さんが制作したこの別注の本塩沢は、まさに「今着たい」を目指したものです。

本塩沢
独特のシボ感は単衣の着物にも最適で、しわにもなりにくく、本当に着やすい着物です。昔から人気があったこともあり、クラシックな柄行きのイメージがありますが、今回お願いしたやまだ織さんはじめ、きれいで爽やかな色味の新作に挑戦する流れも感じられます。
歴史に裏打ちされた完成度の高さと、現代的なニュアンス、今回の話がまとまり良かったです。
産地を作品で盛り上げたい
産地の染織品の別注には「新鮮な商品情報を循環させて産地を盛り上げたい」という目的があります。当店のオリジナルを声高に主張するわけではなく、ロットでつくられた「副反」を問屋さんとシェアしています。
まず、産地の染織品を個人で別注することはできるか?これは限りなく不可能に近いと思います。というのも、個人ではなく工房として動く以上、同一の品を複数制作する「ロット」が絡んでくるからです。
例えば、某有名な紬では同時発注数が10反以上必要で、その数を下回れば織元は制作を受けてくれません。それは、糸や柄の加工をある程度まとめないと、制作サイドに利益が還元できないという現実によるもの。
今回制作した本塩沢も当然ですがロットが存在します。10反とは言いませんが、ある程度の制作数をまとめないと制作することができません。1反でも動けるとは聞いていましたが、おそらく価格など現実的ではなかったのでしょう。立ち消えました。
塩沢だけではありませんが、制作に特化された産地の工房には「デザインのヒント」はあまり循環しておらず、どうしても旧時代的な作品を超えにくい環境です。(何を作ったらいいか・・という悩みををどこに行っても聞きます。)
これを突破するために、「デザインは当店で考え・出来上がるロット分を分ける」という制作法が浮かんできます。
当店のデザイン企画を「売れそう!」と認めてくれれば、問屋さんがロット分を引き受けてくれるかたちです。(当店発案の着尺や帯は結構売れるらしいです、ありがたいことに)
時勢もあり、沢山の商品を抱えるのは悩むこのごろ。問屋さんからメーカーへの発注数も控えめになります。しかし、当店の企画により「今着たい」が制作できれば、それは良い投資になるはずです。この循環が回れば、制作数も増え産地が盛り上がるのではないでしょうか。
また、伝統染織のノウハウでつくられた完成度の高い、新鮮な着たくなる織物ができれば、着物好きにもっと喜んでもらえるでしょうし、着物業界の活性化にもつながるはずです。
とにかく、素敵と思ってもらえるものを
別注の目的は、最初は他店との差別化でした。ですが、今となってはそんなものはどうでもよいことです。とにかく素敵でグッとくるものに沢山挑戦して、着物を楽しむ人に届けたいことに目覚めつつあります。
今でこそ千成堂別注とオーダーメイドが取り扱い品の中心になっていますが、これができるのは、作り手であるメーカーや作家さん、また問屋さんたちのお力添えがあってのものです。
心からの感謝を申し上げつつ、これからも頑張ります。
この本塩沢も、気に入ってもらえると嬉しいです。
作品担当 井上英樹