2020年の春夏は新型コロナウイルス流行があり、基本的に無いものとなってしまいました・・。
今、着物や帯をつくる機屋さんや、染匠さん、問屋さん、もちろん当店も相当に厳しい夏シーズンでした。
実際問題、着る期間の短い夏着物関係は、もともとの生産縮小もありましたが、この機に余計に縮小されることは間違いないと思います。下手すると消えてしまうかもしれません。
ですが、すっきりと美しい夏の着物を失うのはあまりにも惜しいし、黙っているわけにはいきません。
「夏の着物を涼やかに着て楽しむ」そんな体験をこれからも作っていくにはどうしたらよいのでしょうか。
私が考えるに「夏着物を着るシーズン」をもう少し広げては?と思います。
どう考えても9月の気温は、昔の夏より暑いです。それなのに、昔のシーズンと同じ様式で着物を着るのは無理があります。
ですが、季節感を大切にするのが着物です。あまり無粋なのも考えもの・・。
そんな「夏の着物を今より長い期間、素敵に着る時」に、強い味方になってくれる帯があります。
それは気鋭の西陣織元「鈴木織物」さんの「幾何学系の柄の水衣錦 袋帯」です。
この帯はすっきりとしたデザインと、軽い薄手の質感が特徴の帯です。
そのために、なんと「通年締める」ことが、織元さんからも推奨されています。
柄は異国の壁から起こした幾何学的な意匠です。いわゆる花などの季節柄ではありませんので、春や秋に締めても違和感はありません。
季節感を超越した帯がひとつあれば、帯を着回して、着物の季節感を拡大できます。
コーディネートした絽の付下げに合わせれば夏仕様に、秋からのすっきり付下げや訪問着に合わせても素敵です。
盛夏はもちろん、秋にも冬にも(冬にはすこし薄いかも・・)楽しめる作品です。
今年お客様に聞いたのは「絽のフォーマルは着る機会がないのよ」ということ。
確かに、短い盛夏のシーズンだけに限定すると、おっしゃる通り機会は少ないでしょう・・。その短いシーズン限定の帯をつくるのか?少し抵抗があるのではないでしょうか。
ですが、単衣~盛夏のシーズンと広げて考えればいかがでしょうか?
きっと、ある程度着る機会が増えると思います。
今までは「●●の季節限定!」「●●のシーン限定!」と限られた席に向けた作品が多く生み出されていました。
これは、伝統文化や季節感を大切にするとても得難いことです。
ですが・・上昇を続ける気温や、出番の少ない着物や帯たちを考えると、少しズレた価値観かもしれません。
できるだけ、たくさんの機会にお召しいただける作品がもっと着る人の視界に入ってくれば、着物や帯の楽しみが増えるはずです。
私も伝統を踏まえつつ、幅広いシーンに向けて提案できるような作品の発掘や、ご案内をさらに頑張っていこうと思います。
鈴木織物さん帯のように、デザインも素敵で締めるのが楽しみになるような作品は、私は特にお勧めしたいです。
きっと、あなたの世界を広げてくれるはず!
千成堂着物店 作品担当 井上英樹