こんにちは、作品担当 井上英樹です。
私の仕入の守備範囲で最も特殊なのは「リユースやヴィンテージ」です。普通の呉服屋さんでは扱わない、お仕立て上がり品や時代の経った作品のことです。
いわゆる、本当の時代物はお店のコンセプトに合わないので扱いません。ですが、時代を経た「旧い」織物の美しさには時折はっとさせられ、すかさずコレクションしています。
今回紹介する「浦野理一」氏の作品は、時代を超えた魅力のある織物です。まさに、ヴィンテージな魅力にあふれています。
染織家 浦野理一のこと
浦野理一は昭和40年頃に活躍した染織家です。紬の着物や帯、型染めの作品と幅広く手掛けており、その作品はアンティークやヴィンテージを愛する着物コレクター必携となっています。
氏の仕事はいくつかありますが、小津安二郎氏の映画の衣装を監修したことと、幸田露伴の次女で随筆家の「幸田文」さんの本の装丁に使われた「幸田格子」が特に有名です。
浦野理一の経節紬(たてぶしつむぎ)
今回出会ったのは縞の紬。ひょうたん糸と呼ばれる、節感の強い糸を使った「経節紬」の作品です。藍の濃淡の縞に黄色を忍ばせた希少な他色使い。寒色をベースに構成した配色が、すっきりとした表情を見せています。
浦野理一氏の作品は現代の着物に比べると「レトロ」な趣があります。ですが、この作品のように、現代の着こなしに映える、洗練された表情の作品も見つかります。
浦野理一の着物に合う帯を探す
色々と帯の試行錯誤をしましたが、今回は久呂田明功工房の帯を合せて、質感の調和を狙いました。
この帯は近年制作された現代の作品です。時代を経た浦野理一氏の着物と合わせることで、レトロさの中にどこか現代の香りがある「ネオ・ヴィンテージ」的な世界観を見せてくれました。
また、初代 久呂田明功氏はかつて浦野理一氏に師事していました。そのため、浦野理一作品とされる型染めにはかなり久呂田明功氏の手が入っています。
そもそもの出所が近いこともあり、自然とぴったり合いました。
浦野理一の着物は、レトロすぎない着こなしで新鮮に
今回、私はあえて一番合う型染めの帯を外しました、着物に合わせたときレトロすぎるからです。
基本的に私は現代の街並みにあう着物コーディネートを目指したいと考えています。「浦野理一の経節紬」というヴィンテージの着物でレトロすぎない空気をどう作るか、まさに「ネオ・ヴィンテージ」。
ちょっと視点を変えて、新鮮な着こなしを楽しんでみませんか?