「下駄=夏」というイメージは、多くの方にとって定番かもしれません。けれども、本来の下駄は、夏だけのものではありません。季節ごとに素材や履き方を選べば、一年を通して和装に寄り添う美しい履物として楽しむことができます。
たとえば夏──白木や胡麻竹の台、麻素材の鼻緒は、見た目にも清涼感があり、素足で履けばまさに風が通るような軽やかさ。浴衣に合わせて、少しだけ背筋を伸ばすような時間を味わうには、これ以上ない存在です。
春や秋には、足袋を添えて紬や木綿といったカジュアルな着物に下駄を合わせる──そんな楽しみ方も素敵です。
下駄は「季節を履く」という発想を叶える、日本ならではの履物なのです。
四季すべてに合わせたい、桜皮の下駄

角館の伝統工芸「樺細工」が有名。桜皮の下駄は、まさに四季を通して楽しめるおすすめの一足です。弊店の別注は舟形の台に、染織作家・柳川千秋氏による草木染めの紬裂を鼻緒にあしらったものです。
夏の着物や浴衣を一際の高級感で魅せ、また、秋風からは紬に合せても素敵。草履に近いデザインの舟形は弊店の考える上質な下駄の完成形の一つです。
裏面には滑り止めを兼ねたゴム貼りが施されています。カランコロンという音も軽減されており。気の利いた仕様となっているのも嬉しいところ。
夏の涼、竹の感触──胡麻竹の下駄

暑さが本格化する季節に欠かせないのが、胡麻竹張りの桐下駄。竹の涼やかな肌あたりが心地よく、素足で過ごす日々を快適にしてくれます。
反り返りのある素材です。この胡麻竹をきちんと台に貼り合わせるには高い技術が求められます。まさに職人の腕の見せどころ。当然ですが一日に作れる数はごくわずか、非常に入手の難しい下駄の一つです。まさに“夏の工芸品”とも呼ぶべき存在ではないでしょうか。
浴衣姿にはもちろん、新しい解釈として極軽い足袋を合わせ、夏の着物へのコーディネートもいかがでしょうか。一際の美しい「涼」を、ぜひ足元からお楽しみください。
彫の美と実用性──カシュー塗の下駄

そしてもう一つ、季節を選ばず活躍する一足としてご紹介したいのが、カシュー漆塗りを施した黒台の下駄です。こちらは弊店が彫りの柄から指定し、モダンな印象と格上げ感の両立を目指した一品。
カシュー漆とは、カシューナッツの木の油を原料にする、漆に似た樹脂塗料のひとつです。天然の漆に比べると風合いや味わいの点では異なりますが、紫外線に強い特性があり、耐久性に優れた素材です。神社仏閣の内外装にも使われるこの塗料を使用することで、強度と扱いやすさを両立した現代の下駄になっています。
下駄は夏だけのものではありません
今回は弊店の取扱品を中心にご紹介いたしましたが、下駄は夏限定の履物ではありません。コーディネートを際立たせる、草履にも匹敵するニュアンスのある履物です。浴衣にはもちろん、紬や木綿の着物にもぜひお試しいただきたいと思います。
季節を歩くように、そして自分らしさを見つけるように──どうぞ、千成堂の下駄とともに、足元から四季の装いをお楽しみください。