染色造形作家「あおきさとこ」さん
「あおきさとこ」さんは染色造形作家。布を染める「染色」技法と樹脂やアクリルなどの異素材を駆使した「立体」技法を組み合わせ、多彩な表現を生み出しています。そして彼女の手掛ける作品はそこに留まらず、絵画的な作品からグラフィックデザインまでと幅広いもの。また公募展でのグランプリ・入選歴も多数。現在進行系で注目すべき現代アーティストの一人です。
オンラインで作品を拝見、衝撃そのまま早速コンタクトを取りました。京都で制作をしていましたが、現在は関東地方にアトリエを移転しているとのこと。創作がはかどるアトリエの広さ、フットワーク軽く東京にアクセスできる利便性がポイントらしいです。
まるで呼吸をするように…唯一無二の「想音」
さて、今回、当店の別注として制作された九寸名古屋帯「想音」は、そのあおきさんによる特別な作品です。下書きを行わず、心に鳴る音を一気に筒描きで描くという驚異的な手法をとっています。そのため、複製や再制作をすることができません。まさに世界に一つだけの作品です。
生地は風合いがよく、筒描きが走りやすい上質な小千谷紬を弊店で選び、京都の工房で引染めをしました。紫色の上に、濃い墨色を重ねた二度引染です。紬の染め帯は洒落着物に合うように風合いを重視していますが、あまりに風合いが強すぎても生地にひっかかるためバランス良い一反を選びました。
あおきさんの言葉で最も印象的だったのは「どこまでも描けます」という一言でした。呼吸のように自然に筆が走っていく姿に無二のエネルギーを感じます。
遊び心で自由に飛び回る鳥…あなたは見つけられますか?
太鼓の部分なのですが、中央に線の重なりを厚く、そのまわりをあっさりと仕上げる工夫がされています。また、前柄は一柄として続いて描かれていますが、柄の混む向きと無地の向きがあります。そのため帯締めとのコーディネートが楽しめます。和装品の制作は基本的に行っていないと聞いておりますが「帯」というプロダクトを研究してくれたらしく、見事なアウトプットです。
また、太鼓柄には数羽の鳥がいます。前柄には青海波をモチーフにした部分も隠してあり、遊び心のある作品に仕上がっています。(あおきさんいわく、サプライズが好き、とのこと)
作家さんと、作品と、共に目指すオリジナルの和装の高みへ
昨年から、あおきさんはじめ、アーティストの方に帯作品を頼むという試みを行っていますが、個性が輝く一点もの作品たちが着々と仕上がっております。いままでの高級呉服的な世界観になかった作品性の高いもの、所有する意味のあるもの、作家への想いも感じられるものを私は提案したいです。あおきさんの帯は、その全てを満たす完成度の高い作品で間違いありません。
作品担当 井上英樹