写真と紬織物を並べて、同じ作者から発する気配を味わう小さなインスタレーション。世界観に「写真」が重要なポジションを持つ染織作家 柳川千秋さんからとどいた紬着尺「雨を聴いた」は写真との調和に意味を持ちます。
順番的には織り上がりのあとに撮られた写真と聴いていますが、実は二つの作品から「こっちがいい」と選ばれた一枚になります。一つは水の波紋が強調された雰囲気のある作品でした・・があえて外し、町田の街を濃淡で切り取ったさらりとした一枚の写真を添えることに。
経糸と緯糸にランダムに絣を配置した「やたら絣」の着尺は、雨の降り具合を調整するべく、無地の糸を絣糸の間に挟んだ「間」のある作品になります。絣・無地・絣のように開けられた一行の糸使いはポツポツ・・サーといいますか、程よい潤みの表現です。(柳川さんに聞いたところ、無地の糸が一本無いだけでザーザー降りの雨になってしまうそうです、なるほど。)
クールで都会的な表現、という一言に集約するのは簡単なのですが、私はそこに収まらない人間的な余韻や空気といった曖昧なものに何故かとても惹かれます。今回織り上がった着尺を見たときに、地色に対して一本の糸が跳ねるこちらに、とても惹かれてしまうのです。「都会的」というありがちな表現を超えて、何か、もっと人間味のあるものです。きれいな音が聞こえるような、傘の下でほっと一息つくようなあの空気というか。只々に惹かれます。
草木染めについて
染料は桃とくさぎ。透明感とうっすら濁りの同居した配色です。臭木と書くとなんとも雰囲気が出てしまうのでしょう柔らかくひらいてあります。糸の時点でかなり狙い澄ました好配色ですが、織物の醍醐味は糸を経と緯に合わせたときに出る表情。絣の表現に別格の素敵さを感じます。まさに着たい着物のベースです。
コーディネートは・・準備中
どうしても合わせたい帯を、とあるテキスタイルアーティストさんにお願いしております。それを大人しく待っています。乞うご期待です。
着物として着る
何か心に渦巻くものを表現するときに、人は絵を描きます。絵の具を選ばずに染めて織ってを選ぶのが染織家という人たちです。心象表現であったり、風景の描写だったりと色々あるとは思いますが、着物に携わる以上、実際に着られるかという視点は大切になります。
柳川さんの手掛けた今作についてですが、着るものとしての良さがあり、写真と一緒に並べた時に調和する絵画的な良さもある稀有なものだと思います。
織物と写真。着るものと感じるもの。そんな表現力の柳川さん、
これからの展開が楽しみです、たぶん誰よりも。
作品担当 井上英樹