
いつか絶対に挑戦したかったオリジナルのパナマ草履が完成いたしました。さすがに台を完全オリジナルとはいかなかったのですが、厳選に厳選を重ねた裂から作った鼻緒を丁寧に合わせました。他にない作品への挑戦です。まずはこの佇まいを見ていただきたい。
まず、良質なパナマの台を手に入れるのが困難
ご存知の方も多いと思うのですが、パナマの台には平たいシートを切って作った天と、草履専用に編まれた「つむじ」のある天の二種類があります。パナマの帽子を編む方に時間がとられる関係もあり、和装品であるつむじのパナマ台は本当に流通量が少なくなっています。希少価値のせいか年々に価格が上がっていることもあり、いつまで手に入るのかが本当に読めなくなってきています。
当店は年がら年中声をかけているため、なんとなく入荷できていますが、毎年割当量が減っている印象です。ですが、やっぱりこのつむじのパナマ台の雰囲気が良くて、出来ればこの台が良いのです。
その上、制作を手掛けた和小物さくらさんお得意の「真綿入り」はふわふわしたクッションとぽてっとした、ルックスが可愛らしく。今回のパナマ台には絶対に採用したかった・・のです。
絞り染め裂の鼻緒をデザインする
こちらの鼻緒は弊店で良い時代の生地を見つけ、菊之好さんに制作を依頼したオリジナルの鼻緒です。仕立てが良く、まさに高級草履の風情を漂わせています。ヴィンテージ、という年代をどこに設定するかにもよるのですが、非常に仕事の良い時代の絵羽の着物を入手するタイミングがあり、少しづつ良い場所を切り取って鼻緒を制作しています。
本当は着物としても着用を考えるべきなのですが、小さいこと、汚れが各所にあることなど着物としては条件が悪く、小さい範囲からでも作ることができ、芯を貼って生地の補強もできる鼻緒へのアップサイクルを行いました。裏地の本天の色味にまで徹底的に選び、その完成度に自分自身かなり気に入っています。(前坪に生成りを入れようかと思っていましたが、菊之好さんからアドバイスの電話がかかってきまして、白に決定しました。結果として良かった。)
積み重なった時間、というテーマはあるのですが、奥になにか雄大なものを感じる作品性の高い鼻緒ができました。
スタンダードで洒落たコーディネートである、ということ
様々なお店や和装を発信する方から「オリジナルの履物」が提案されています。夏になると下駄というジャンルも活気が出てきますので種類が結構あります。ですが、配色や形を工夫しすぎたものが多く、なんとなくピンとくるものは私的にはありませんでした。
常に「ニュアンスを感じる色味」ということが頭にあるのですが、ほんのりとした色づかいを提案したかったですし、シンプルでありながら上質なムードを提案するなら素材自体の吟味は絶対に必要だと思っていました。そのため、履き心地と生地感の良さがあり、シルエットまで隙の無い和小物さくらさんの綿入り・つむじありのパナマ草履台と、裂の良さを殺さず上質な鼻緒に仕立て変えられる菊之好さんのダブルチームは、私の想う雰囲気づくりには完璧なパートナーだと強く感じました。
あくまでも、スタンダードに合わせられる上質なもので、お洒落であること。
言葉にすると非常にシンプルなのですが、その世界観を体現した、良い履物ができたのではないでしょうか。上布や芭蕉布といった最高級品や、質の良い夏紬などに合わせて欲しいな・・と勝手に思ってはおります。
着物や帯を作るのも楽しいですが、履物を考えるのも楽しくて癖になりますね。草履沼にはまる人の気持ちがわかる気がする今日この頃でした。作りたいもの、合わせたいもの、何かあれば私までご相談くださいませ。一生懸命考えます。
作品担当 井上英樹