そもそも、洋服に比べて大切に着られ、衣類としての寿命の長い「着物」の世界において、ヴィンテージを定義するのは非常に難しいです。普通に考えても「ご家族から受け継いだ」や「昭和のデザインを古着店で買った」時点でかなり年代は経っており、時代のものという意味ではヴィンテージに近い状態です。
ですが「今着たいデザインやスタイルか?」ということに当てはまらない場合、時代だけではヴィンテージということはできないと思います。今、昭和の作家としては最大の人気を誇る「浦野理一」さんなどは最たるもので、レトロでありながら、今新鮮に見えるようなデザインの完成度があります。まさに着物のヴィンテージの王道です。
しかし、そこだけで終わってしまうのは奥深いこの着物の世界において、ちょっともったいないと思います。今、私は「小森久(小森草木染工房)」さんの作品をヴィンテージとして掘りたいと思っています。
ヴィンテージとしての定義

なぜ、小森久はヴィンテージになるのか?正直、小森さんの活躍した時代をリアルタイムで過ごしておらず、また現在は廃業されていることから、当時の状況は説明ができないのですが、中古の市場においてある程度の作品数を見かけるため、人気のあった作家・工房であることは間違いが無いと思われます。作品のラインナップはいわゆる完成度の高い献上の八寸、名作として名高いジャバラ、またよろけ縞・横段の袋帯、帯締めあたりが発見できます。
無形文化財として指定を受けた草木染(本草木染)で染められた糸を織りあげることで表現した独特の配色は、遠目にもすぐに小森久の手掛けた作品であることがわかります。非常に個性的です。
偶然に発見された「透明感のある色」
その個性のある色使いは比較的渋く、深みのある「濃い」世界観であることが多く、現代的か?と言われてしまうと、正直すべてが現代的ではないと思います。しかし、今回偶然にも3点同時に発見された作品は、全てが今風のニュアンスカラーであり、その草木染の澄んだ透明感が生きた作品でした。
もともと、ジャバラは個人的にも好きで古物商ルートで出会うたびに仕入れていましたが、透明感のある袋帯2点と同じタイミングで揃うと「あ、これ絶対ヴィンテージだぞ」とピンと来る世界観がありました。ラインナップで揃うと途端に見え方ができてくる時ってありますよね。
一番驚いた「縞の昼夜・袋帯」

まず、最初に紹介をしたいのは縞の袋帯です。うっすらとピンクがかったグレージュ系の構成に控えめな緑のラインがセンス抜群です。写真ではなんとなく表現が難しいのですが、このピンク系のグレージュは糸の艶めきを相まって本当に澄んだ綺麗さ。両面が使える昼夜帯ですが、当方的にはこちらの面を今ならシンプルに合わせたい。「小森さん?あの、濃い感じの帯でしょう?」と思い込むのはきっとまだ早い。当時、この色味はもしかすると静かに思われていたのかもしれませんが、今こそこの静けさがコーディネートに心地いい。

名作中の名作ジャバラ紋

様々な博多帯がありますが、単色でこの奥行きは見事としか言いようがありません。蛇のお腹、ジャバラを模した「ジャバラ紋」の帯は、まさに、小森久を代表とする作風の一つではないでしょうか。糸の染色材料により黄色っぽい作品やピンク系の作品がありそうなのですが、今回入荷したこの色味が大人っぽくて好き。柄のリズム感も良い感じです。

完成度の高い、ピンクの構成が施された袋帯

山野で採集した草木で出したこのピンクとグレー、優しいベージュが個性的でありながらすっきりとまとまった作品。こちらもニュアンスカラーの構成がまさに今のテイストを感じます。透明感のある草木染がシンプルに生きています。どこまで昔の作品かをたどることはできないのですが、よくぞこの雰囲気を出してくれたと感動しました。色無地に提案として合せてみましたが、無地感の紬にも良さそうです。
時代ものであり、現代に通じる感性があること
ただただ時間たっていることではヴィンテージとして評価することはできず、また、市場に溢れていてもちょっと違うと思うのです。今回3点のうち、ジャバラは時々見かけるとして、袋帯二点は私自身見たことが無い希少なニュアンスカラー、価値あります。コーディネートのアクセントとして、この個性を是非生かしていただきたいです。まさに現代的な装いの楽しめるヴィンテージとして、小森久さんの作品をお勧めいたします。
小森久さんの作品一覧はこちらから今すぐご覧ください。(全て1点ものにつき、完売時はご容赦くださいませ。)
作品担当 井上英樹