本場久米島紬をご存知でしょうか?
結城紬、大島紬と比べるとほんの少し踏み込んだ立ち位置の紬です。
久米島紬は「紬織物の源流」としても称される歴史のある紬織物のひとつ。沖縄諸島のひとつ久米島で織られる紬で、島の植物を基本に染められる独特な色と、仕上げの砧打ちで出す深い艶と風合いが最大の魅力です。
素朴さと、どこか洗練された上品な雰囲気が同居する、中々に面白い紬です。
技法的には、本場大島紬と同じく草木染と泥の媒染で深いこげ茶を出すのですが、植物や泥の種類の違いからか赤みを含んだ茶に発色します。
その色が生み出す先染め糸の「絣」は本当に綺麗です。また、基本的に一人が全工程に関わるため、非常に作家性が高く、作り手のセンスや世界観が凝縮されているのもポイントが高い。
当店では、「絣のもつゆらぎ」と「現代的なセンス」が同居する作品を常に追い求めておりますが、今回入荷したこちらは、伝統の泥染めから生まれる色と、絣のテイストが調和したまさにど真ん中な逸品だと思います。
コーディネートは比較的考えやすく、柄物の九寸も無地感の八寸帯も幅広く合います。
ですが、今回は織物の高級感に負けない、洒落袋帯を選んでみました。
「カシミール」の題が付けられた手刺繍の袋帯ですが、これは中々素敵です。
これは京都の某メーカーさんがベトナムの刺繍工房に発注して、制作された作品です。このメーカーさんのバックグラウンドを聞くに「贅をつくした」「お金のかけ方が桁違い」とのことで、作品への投資の具合が半端ではないようです。こちらももれなく、感じるものがあります。
カシミールという題が付いていますが、カシミール刺繍の技法や図案へのオマージュが感じられます。
ベトナムの刺繍は世界的にも評価が高く、伝統に裏打ちされた完成度の高さは一見の価値があります。
精密に制作された装飾作品になってくると、まさに天文学的なプライスになってきますが、そこは帯として上手にコントロールされている印象です。
現地の工賃の上昇や刺繍職人さんの高齢化など諸問題があり、現在はこのテイストの作品は作られていないそうです。(仮に作れたとしても相当に値上がりしてしまうそうです)
刺繍の帯と一言で言っても、色々だと思いますが、細い糸を丁寧に配置して作り上げられたこちらは間違いなく美しく仕上がっています。
色の選択も洒落ていて、久米島紬にもしっとりと馴染んでくれます。
こちらの帯も今後は手に入らないことが予想されますが、上記の久米島紬も中々に難しい状況になっています。
そもそも、着物市場の縮小は今に始まったことではなく、最盛期に比べると恐ろしく制作数は減っています。コロナウイルスの問題を機に廃業される方も珍しい話ではなくなってきました。
私自身、仕入れに行っても良い感じの絣ものは目に見えて少なく、手に入れることが難しくなってきました。
在庫として残っている作品で色柄にこだわらなければもう少しは選べるのですが、私としてはそんな話ではありません・・やっぱり、当店へ指名を受ける「現代的で素敵なテイスト」にはこだわりたいのです。
何が正しいのかはわからないのですが、きちんと仕入れることや、お客様が「すてきね!」と言ってくれるような作品を世に出すことを頑張っていこうと思います。
脇道に話がそれましたが、こちらの久米島紬と刺繍の帯のコーディネートは、とっても素敵ですのでお勧めです。
作品担当 井上英樹