秋の仕込みの総集編、それは8月。
この時期はどうしてもご依頼も”空”きます(暇ということです・・)。
すぐに何かの話がなければ、秋に向けの準備の月です。
「新作が少し上がりますよ」と聞き 「洛風林」さんに行って参りました。
(余談ですが、また雨降りました・・前日九州で大雨があり、関西方面にもその流れで強い雨が降りました。ここまで出かける日に雨が降ると、自分が怖くなってくる。写真は烏丸御池の交差点、しっとりしています。)
さて、無事に洛風林さんに到着。
いつもより少しゆっくり、遅起きでした。
堀江社長、愛子さんといつものように、いろいろ制作話を聞きながら作品を見せてもらいました。
「ん?」
今回、とても目についた配色がありました。
「ブラウン系」です。
今年は、もしかしてブラウンが気分?
秋冬になると黒系や藍色系が増えるのは当たり前なのですが、その手前のブラウンが目立ちます。
特にちょっとした差し色が印象的、素敵じゃないですか。
そういえば、他の展示会でもブラウン系の作品が目立ったような・・?
大きな気分の流れを流行と言うのなら、きっと、今年はブラウン系の当たり年では?
ニューノーマルな単衣とリンクした、ブラウン系
勝手に予想してみましょう。
今、気温の上昇で単衣着物のシーズンが拡大されています。
以前のような衣替えでは、とても暑すぎて着ていられないからです。
春・秋の単衣をワードローブに組み込む場合、夏着物と冬着物の間にロングシーズンな単衣着物というジャンルが加わります。
着物に合う帯を考えると、少し季節感を取り入れられる上に、生成り系・ピンク系・青系の着物に相性が良い、ある意味シーズンレスなブラウン系が帯に登場するのはわかる!
洛風林 「ウクライナ更紗」九寸名古屋帯
どこの展示会でもそうですが、一押しの作品は「掛けて」展示されています。
入り口の横にサラリと掛けてあったこちらの作品「ウクライナ更紗」を見たとき、「ブラウン系トレンド」の予感が湧き上がりました。
白系の地色に寒色・暖色がバランス良く配置されていますが、可愛らしいブラウンが全体を引き締め、寒色から暖色への合わせやすさを完璧にしています、素敵。
本場久米島紬、希少な組織織の着尺と合わせました。
帯揚げや帯締めといった帯まわりには、当店にしてはやや珍しい「盛り」のあるタイプを選びフォトジェニックに。茶系のトータルコーディネートにすっきりおさまりました。
制作を担当した愛子さんに「赤が入った帯を選ぶとは思わなかった」と言われましたが、この控えめな赤は絶妙なセンスで、とても惹かれました。
洛風林 「トルコ小花文」 九寸名古屋帯
さて、ブラウン系の地色が印象的な帯です。
作品がお店に到着したときスタッフが「渋い!でもかわいい!」と絶賛したバランス感抜群の作品。
コーディネートは着付けも手掛けるマサエさん担当ですが、ピンク系の着物に合わせてコーディネートいたしました。いかがでしょう、このブラウン系とピンクの相性は良いと思いませんか?
「書籍「洛風林百選」(昭和55年発行)にも収められている洛風林の代表的な帯の一つ」とのことです。
洛風林 「市松飛雲文 千成堂別注色」 九寸名古屋帯
これはちょっとニュースです。
「千成堂さんの感じで配色しました」と堀江麗子社長。
当店の意向を含み、洛風林さんに制作をいただいた別注的な配色となります。
お太鼓中央・雲の柄にうっすらブラウン系の配色がミックスされています。
まさに今の色味、お洒落です。
シンプルな寒色・清潔感のある白・質感を高めた市松地・・そこに温度が少し加わるだけで、合わせやすく優しい世界観が完成します。
instagramの投稿より
こちらの帯は、雲の部分に金糸を使ったセミフォーマル系の帯なのですが、織の着物に合うような艶を抑えた糸に統一、グレイッシュな雰囲気の白地にまとめていただきました。
洛風林さんのinstagramで掲載された作品について、なんとなく話をしていたのですが、アイディアとして採用していただいたとのこと。ちなみに、二本制作は行われており、そのうちの一本が入荷しております。
お邪魔するたびに、配色のことは話をしているのですが、まさか制作をいただけるとは・・
ちなみに前回、制作をいただいた「流雲文」という作品があるのですが、こちらも「当店のイメージで」と言っていただけた作品でした。
なんでも言ってみるものです、ある日、嬉しいことは起こるってもんです。
洛風林 「ボハラ刺繍」 九寸名古屋帯
こちらは紬地の帯。真っ黒に持っていかないで、極めて黒に近い墨色の地色がポイント。
これはブラウン系ではないのですが、「ウォームカラー」を効かせた、トレンド感のある作品。
シャネルのコレクションの話がちょこっと出たのですが、モードのトレンドと異国情緒の柄のミックスは洛風林さんの魅力の一つ。
当店がオリジナルで制作した刺繍の飛び柄小紋に合わせてスタイリング。
洛風林 「彩松」 九寸名古屋帯 白
織り手の引退で新作を作ることができなくなった飛天錦の帯。
経糸に箔の糸を巻き付け質感を出し、濡れ緯と呼ばれる水につけた緯糸で織り上げた非常に高度な織物です。
白地に金銀糸のシンプルな作品は当店でも常に人気が高く、(シンプルな付下げに最高!)今後の制作を聞いておりました。
しかし、現時点でも制作の目処は立たず・・希少なコレクションの一点を譲っていただきました。
洛風林 「マグノリアの花」 九寸名古屋帯
こちらは今回より前に入荷した新作です。instagramで発表された作品に早速お声を掛け、入荷いたしました。
今回のブログとはちょっと趣旨が異なるのですが、寒色でまとめられたマグノリア(木蓮)の柄が美しいです。
ふくれ織が帯に対して長く配された一際に上質な作品となっております。
何が着物の流行を動かすのだろうか
「着物に流行はありません」という言葉に私は違和感があります。
世相や気分、大きなトレンドの流れは着物というファッションジャンルにも必ずあります。
かつては落ち着いたグレーのメンズライクな着物、大人のピンクに大きなムーブメントを感じましたが、今回の弾丸ツアーで感じたのはブラウン系でした。
流行を追いかける、と言うと軽薄に聞こえますが、ブラウン系への注目は少し趣が異なっていると思います。
世の中の大きな流れとして新型コロナウイルスの流行による「ニューノーマル」への変化があると思います。
「持っていたものを処分・整理して、お家の中を快適にすっきりと暮らす」という流れに乗って、余分なものを持たないという考え方がさらに浸透しました。
「カラーコーディネートのしやすい、ブラウンを含んだすっきり配色の帯」
こんな帯に気が付いてしまうと、今まで持っていた帯を減らして、少数精鋭にして、タンスをすっきりさせる・・そんな流れも出てくるのではないでしょうか。
世の中の流れに連動していくファッションとしての着物。
そんな見方で見てみるのも興味深いですね。
帰りの新幹線では雨は上がっていました。
作品担当 井上英樹