作品担当 井上英樹です。
関美穂子さんから新作の帯地が到着いたしました。
こちらは、私、井上 英樹が配色のアイディアをお伝えして、考えていただいた当店のオリジナル作品となります。
関さんは50代でも若手と言われる、この業界において、年齢的にはきっと若手の中の若手です。ですが、今回、届いた帯に感じる空気は、もはや若手という表現は似合わない、群を抜いた世界観でした。
関美穂子「花園 / 千成堂着物店別注色」紬地に型染 九寸帯地
スカーフから着想する配色
こちらは「とあるスカーフ」から着想をいただきました配色ですが、今回の作品にはとても難関のポイントが多く、関さんにはとってもご苦労を掛けてしまいました・・。
まず、この花園という柄は、濃い地色に白い花を浮かせるような表現に特徴がある柄です。
今回、オリジナリティーを出すため、配色を反転させて、制作をいただきました。
そのため、通常とは全く異なる、薄い地色の帯になっているのです。
そのため、今までとは配色の感性が異なり、大変に苦心されたと聞いています。
彩度の高い配色を咀嚼して、関さんの色に昇華する
着想の元になったスカーフは明度・再度の高いものでした。
仮に、そのままの感覚を再現する場合、染料ではなく顔料が正しい選択です。
そのため、帯地から浮かず馴染む染料を使う関さんには、同じ世界観は出しにくいのです。
ですが、制作を受け入れていただけたのです。
普通、自身の世界観に遠く離れた依頼は、作家さんから断りが入るケースが多いです。少し遠い世界観に挑戦をいただけたことに、ある種の感動がありました。制作にしっかりと時間をとっていただき、じっとお待ちしておりました。
一度、関さんが色を含み、咀嚼し、自身の世界観に再度描きなおす。
本当に、贅沢な依頼となってしまいました・・。
また、たれの部分は、今回も重ねて色を染めて、質感を高めていただきました。
紬の地風と相まって、良い風合いです。
白地の帯の難しさ
おそらく、柄部分を白地にしてしまうと、少し物足りなかったのでしょう。
柄の部分は白ではなく、ベージュ系の地色に仕上げてあります。
このため、ポップで愛らしい、花たちの世界観に「落ち着き」や「渋み」が重なります。
ご自身の世界観「愛らしい、ポップ」さの中に、しっとりと落ち着いた「こなれ」が加わり、二層に世界の広がりを感じさせます。
これはもはや「若手」という表現が似つかわしくない、一つ飛びぬけた表現力だと思います。
関美穂子さんの帯をどうコーディネートするか
早速、コーディネート担当である母 井上和子が構成を考えてくれました。
横山俊一郎さんの三才山紬を合わせた紬コーディネート。
ワントーンを超えた、同トーンの表現がまさに、今のバランス感です。
そして、衿秀さんから入荷した、素敵な色味の絞りの帯揚げで、盛ったコーディネートです。
また、濃い色の結城紬や大島紬などに合せても、きっと合うのではないでしょうか。
お手持ちの着物に新鮮な表情を加えてくれる、便利な帯でもあります。
今回、撮影では大島紬の蚊絣を着ていましたが、私が女性だったら、この帯を合せると思います。
関美穂子さんの帯は主役でもあり、名バイプレーヤーでもある
私や、母であるコーディネート担当 井上和子は、無彩色のグレーだけがお洒落で現代的な着物だとは、もう考えていません。
楽しさを感じさせる色彩や、どこか力の抜けた雰囲気の妙味にシンパシーを感じています。
今、お勧めをしている、明るいウォームな着物コーディネートにも、きっとこの帯なら花を添えてくれると思います。
主役として十分足りる「関さんの型染の帯」ですが、少し落ち着いたニュアンスのこちらは、存在感を放つ、名バイプレーヤーでもあるのではないでしょうか。
今回の作品も、お勧めできる完成度に仕上がりました。
是非、あなたの感性で、新しいスタイルを完成させてください。
作品担当 井上英樹