私が仕事をお願いするのは、その世界感や視点に感動があるからでして、真面目な話、作品が届くと震えるほど嬉しくなります。
今回、3点の作品が届きました「藤井友梨香」さんも、そのテンション抜きには語れません。
そして、亡くなった母 スタイリスト井上和子との話も実はあったりして。
「あんたは、もっと鳥に詳しくなりなさい」とか。
藤井友梨香さんは神奈川県在住の硝子作家さん。
弊店のある川崎市とは少し距離がある、「素敵な海の方」を拠点に、日々制作をされています。
技法的には「ガラス胎有線七宝」という独自のもの。
銀線で繊細な線を描く七宝、それを、吹きガラスの上に描き出す。
少し工芸をかじった人なら、それを聞くだけで驚くような、素材の制約を超えた冴えた技の使い手。
愛らしい表現を支える確かな仕事、それが藤井さんの印象です。
ダメ元で声をかける
ダメ元で声をかけてみたのは本当です。
藤井さんは六本木のギャラリーをはじめ、各所で個展やグループ展で活躍する人気の作家さん。様々な技法の複合である作品自体も難易度が高く、制作数の限りは明らか。簡単には受けてはくれないだろうな・・と頼む前からわかります。
しかし、この作品の引力には抗うことができず・・思い切って相談してみました。
そうしましたら、なんとお店まで足を運んでくれました。
実際にお会いしてみると、その作風にも納得の「優しい明るい」印象の方でして、そのお話しやすさからちょっと無茶なことを頼まれがち・・ということらしいのです。
お一人で制作にあたっていることもあり、色々頼まれると大変になりすぎるのは容易に想像できます。
そのため、できるだけご負担にならない様に・・・硝子も七宝も勉強したうえで・・・時間をしっかりととっていただく形でお願いしました。
さて、届きました素敵な作品たちを鑑賞していきましょう。
まず、箱からして可愛い。
作品が届いた時に、その箱描きの愛らしさにビシビシとなりました。
繊細な線の使い方はもちろん、色の雰囲気も含めて・・これは期待せざるを得ません。
ひゃー、どうすんの。震えるほど可愛い。
雪持ちの南天を描いた作品です。
「雪の表現には苦労しました」
とお手紙で拝見しましたが、ふっくらと、ふわふわと積もった雪、見事です。
南天の赤みが25mmの空に映えています。
藤井さんの作品は、明るいモチーフなのですが私は夜空に浮かぶ光のような光源が見えてしょうがない。情緒や風景の奥行きがたまらない引力です。
そして、「シマエナガ」の帯留め。これもとんでもない、とんでもないよ・・。
うっすらピンクに仕上げた空に赤い実、可愛いシマエナガ・・一部の隙きもなし。
画面を横切る枝の表現や、降る雪にも見えるぷつぷつと浮いた気泡といった見どころも含めて、完璧です。
藤井さんは「鳥」の表現がとても素敵で私はその印象があります。
お会いした際に”鳩”の帯留めを頼んでいたのですが、故・井上和子に相談した時「いや、シマエナガでしょう」「あんたは、もっと鳥に詳しくなりなさい!」と鶴の一声で、シマエナガにモチーフが変更されました。母は強し。
雪持ち南天も母の得意とするモチーフの一つで、その影響も実はあります。
そして、幾何学模様・紫鳶色のモチーフでお願いした作品へのアウトプットは「耀(よう)」。
輝きの表現を追求した宝飾テイストの逸品は、金箔を中に貼り込むという技法も加わった、迫力の仕事。
また、斜めから見るととても良くわかるのですが、寸分の狂いもなく仕上がったカットはまさに輝石。
和の香りを漂わせながら・・この七宝を思わせる幾何学の解釈は無敵としか言えません。
藤井さんの作品は、きっと母も好きだったと思うのです
今回の作品3点は、故 井上和子のアイディアが色濃く残った作品でした。
「雪持ちの南天」は好きなモチーフでしたし、「シマエナガ」はズバリの指定、そして「耀(よう)」 は母の指定した千成堂のチームカラー?とも言える鳶色です。
作品の完成には間に合いませんでしたが、きっと3点とも大好きだったと思います。
そして、息子である私も大好きな3点でして、やっぱりこんな時には親子だな・・と思うわけです。
そして実際のお願いにあたり、「呉服的なオーラ」を気にせず、自由に描いていただけるようにお願いしました。
藤井さんは着付けを始めた縁で着物がとってもとっても大好きになり、いわゆる、呉服的なアプローチをしないと駄目なのかな・・と帯留めの作風には悩まれたことがあるそうです。
しかし、帯留めを和装の中でいう「ジュエリー」と定義するのであれば、私はそこまで呉服的な空気は必要ではないと考えました。
藤井さんはとてつもなく素敵な器も作られていますが、あの、のびのびと、ふくふくとした世界観を凝縮していただくような・・そんなお願いを心掛けました。
おかげさまで、今回の作品は発売開始からわずか8分で全てお嫁入りが決まりました。
私も嬉しいですし、母もきっと喜んでくれていると思います。
そして、ここまで気に入った作品のお嫁入りはちょっと寂しかったりもして・・
作品担当 井上英樹