「どこで、私を見つけんでしょうか・・?」お会いした時の言葉です。
『日常に100年寄り添うバッグ』を目指す、東京都墨田区 増田一也さんの主催するレザーグッズブランド「MASUDA」さんに新しいご縁をいただきました。
基本的にオンラインでの受注製作のみで活動しており、いわゆる取り扱い店は当店が最初・・とのことです。
増田さんはデザイナーでもあり、職人でもある方。
精度高くこだわりの世界観を実現するため、お一人ですべてを行っています。
そのため、あえて販路は広げなかったとも伺いました。
増田一也さんという人
増田さんは大手広告代理店のクリエイティブ職で活躍したのち、「手の仕事」の面白さに目覚め、日本の某有名レザーブランドの門を叩きます。
バッグ職人としてのキャリアを積み、その後独立。
エレガントな最高級皮革製品に長い歴史を持つヨーロッパにも足を運び、自身の世界観をまとめ上げました。
職人的な技術力や経年に耐える頑丈さだけではなく、繊細でお洒落なデザインと溶け合う無為の存在感はMASUDAだけにあるものです。
「修行ではないですが、ブランドを展開してから5年経ったら、徐々に広げていきたい」
と話を伺いましたが、まだ実際は5年経っておらず・・
そこに突如として現れた私、無理を承知で頼んだという経緯もあります。
裏側にも一貫された「革の質」へのこだわり
製品の心臓部は間違いなく素材ですが、その素材にも増田さんは並ではないこだわりがあります。
国内のタンナーが「ヨーロッパの高級素材に負けない!」という決意のもと生み出した、上質なレザーをメインに使用しています。
これは表面を特殊な熱処理したもので、上品なシボ感がありながら、傷の付きにくさと驚くほどの柔軟性、そして負担にならない軽さを生み出した特殊なもの。
雄牛の皮から制作するしっとりと柔らかいレザー「エルメスのトリヨンクレマンス(Taurillon Clemence)」を彷彿とさせます。
内側には人口の高級スエードを使用しています。
これはその見た目の高級感と手触りの良さに加え、軽さ、吸湿性、カビの生えにくさ、と様々な特徴を持った優れもの。
表面との完璧なコーディネートを目指して、増田さんが自ら選び抜いた逸品です。
それを、作品に落とし込むとどのようになるか、早速ひとつひとつ見てみましょう。
「TSUKI (ツキ) 」 千成堂着物店セレクトカラー
時には鋭く、時には丸く、自在の形を見せる「月」がモチーフとなった作品。
このバッグは増田さんがある日受けた「着物に合うバッグをデザインしてほしい」との依頼から制作されたモデルが定番のコレクションに加わった、という物語があります。
色は当店の世界観にあう「grege」「bluegray」をセレクト致しました。
「KOUKOU (コウコウ) 」 千成堂着物店セレクトカラー
日本の高校生の持つスクールバッグにインスピレーションを受けたデザインです。
「RANDHAND (ランドハンド) 」千成堂着物店セレクトカラー
ランドセルをモチーフにしたデザインは、その特徴的な蓋の形状からの着想。
KOUKOUもそうですが、増田さんの目にとまるモチーフは遊び心があります。
素材引き立つミニマルで無駄のないデザインは、まさに増田さんの世界観。
「SUITEKI (スイテキ) 」 千成堂着物店セレクトカラー
そこにあるだけで愛らしく美しい。儚い一瞬の姿を見せる水滴をモチーフに。
丸みはありますが、甘すぎない。
大人の雰囲気ばっちりです。
技術と感性、二つの頂き
私自身、着物の世界に入るまで「海外のハイブランドやメゾンのヴィンテージバッグ」のバイイングを手掛けてました。
その時にエルメス、ルイヴィトン、シャネル、グッチ…とバッグの傑作たちを数限りなく見てきました。
「動物の皮から作る”革”のバッグ」作品たちには、美しいデザインだけでなく、高い技術力がありました。
遥か昔より革という素材に向き合い、かつ美的な表現力を高めてきたという歴史は一朝一夕にはできるものではありません。
「技術」か「デザイン」か、という二元論がほとんどの中、増田さんという人は「職人としての技術とデザインの感性を同時に極めたい」という確固たる哲学をお持ちです。
実際に増田さんの生み出すバッグたちに向き合っていると、その想いが言葉として聞こえてくるようです。
今まで見たことのなかった、技術と感性の高度な融合への挑戦。
増田一也さんという人は、これからを変えていく人なのかもしれません。
作品担当 井上英樹