お客様のオーダーメイド作品はもちろんですが、弊店で発表する着物や帯も妥協なく、楽しく制作しています。
東京を代表する伝説の染織問屋「菱一」さん(現在は解散)でフォーマルを中心に染色作品を担当、現在は別の問屋さんに在籍しています染匠 Tさんの協力を仰ぎ制作した「蛍ぼかし着尺」は、これからの千成堂着物店を象徴する工夫と、提案に溢れています。
事あるごとに言ったり、書いたりしていますが、仕事は一人ではできないのです。総合的な責任は私(作品担当 井上英樹)にありますが、仕事を司る染匠の存在があって、形になっていくものは確実にあります。素敵な着姿を作りたい、その志で頑張っていますので、ご贔屓によろしくお願い致します。
さて、ほんわりと浮かび上がる蛍の瞬きを表現した蛍ぼかしですが、シンプルな中に様々なこだわりが隠されています。
まず、ぼかしの仕事は非常に難易度が高く、染めを担当する職人さんの技術が包み隠さず「モロに」出ます。そのため、誰に頼むか?というところはかなり重要なところ。
一人ひとりの仕事を見極め、的確に仕事を依頼していくという最もシンプルで難しい工程から、染匠Tさんにフォローいただきました。結果、仕事のキレが違う「名品」に仕上がりました。だれでもできるぼかしではありません。素敵なぼかしなのです。
写真は初期のサンプルデザインです。芽出し的に制作された裂ですが、作品の制作に向けてここからアレンジを加えていきました。
完成時の反物は下ですが、お気づきでしょうか?
そう、蛍ぼかしのホワッと具合が違います。
そして、大小にもメリハリを付けてあります。
これは私のこだわりですが、豊かな表情を与える「手仕事のゆらぎ」はどこかに忍ばせたいと思っています。とくに染色の作品は、精緻さの中に遊びを含むものが、個人的には大好きです。
「きちんとより、ふんわりと、大きさにも緩急をつけて」
これは打ち合わせの中でかなり多く出たキーワードです。まずは、どこを目指して進んでいるのか?これをすり合わせていくことは、染匠さんとの共同作業に大きな影響を与えます。
もちろん、大きくすれば良いわけではなく、着たときに収まりが良いか?ということは大切なことです。
いつも、当店の着付け&撮影担当 マサエさんがきれいにボディーに着せ付けてくれますが、程よく柄が立ち、収まりよく出来ていることが確認できます。
今回の柄のサイズ感は少し大きめですが、袋帯や、キチンと感のある名古屋帯に合わせたときに「軽めの付下げに見える」という提案も含ませています。
いかがでしょう、これより柄が小さいと普通に小紋に見えてしまいませんか?袋帯まで受け止める小紋付下げ(風)にするべく、柄をちょっと大きめにアレンジしています。
また、「染ものは生地で出来が違う」とは、染匠Tさんからの教えですが、この一反は濱縮緬の高級な生地を惜しみなく使用しております。しっとり、しっかり、そしてとろりとした絹織物の贅沢さと透明度の高い染め上がりが、この作品の土台となっています。
そして、こちらの作品は「配色のオーダメイドが可能」となっています。
明るい色、暗い色、青系、赤系・・色々な配色に相性の良い蛍ぼかしです、あなたが一番素敵に見えるお色でオーダーメイドも承ります。
サンプルにもなり、当店の考える世界観を表現できる色。
最初の作品ということもあり、まずは、私 が考えた色で制作をしてみました。
こちら「留紺色」は奥に紫を含んだ濃紺、知性的でどこか華やぎのある落ち着いた紺色です。
女性の方はもちろん、男性の着物好きにもおすすめしたい、大好きな色です。
(写真で着ているのは勝山さと子さんに別注した薄羽織の生地、男女兼用の留紺色、オーダーした私物です。)
染め物はもちろん、織物にも取り入れており、今年の当店を象徴するシーズナル・カラーの一つです。
この色はどこまで書いて良いのかわかりませんが・・フランスを代表する老舗メゾンのフレグランスの色、パッケージの色へのオマージュです。
体を覆う面積の大きい着物(長着)、袖の形やカッティング、ドレープなどで女性らしさを足せないなど洋服とは別のルールがあり、適当に洋服から持ってきたから良い、というものではありません。
ですが、今回の留紺色についてはどこかに和装への相性を感じ、アレンジを加えた上で制作に活かしていただきました。それなりに仕上がりへの覚悟というものはあります。
近頃は、一日の大半をお客様のオーダーメイド制作に費やしていますが、やっぱり自分の着物やお店で発表する習作的な作品にも丁寧に時間を掛けていきたいと思っています。
調べたり、考えたり、上手くいったり、失敗したり、笑ったり、泣いたり。
一人ではなかなか実現できるものではない「オーダーメイド」という楽しい世界、奥深い世界に、私は挑戦していきたいな、と思っています。
このブログを読んだあなたも、是非一度オーダーメイドの作品制作をご検討ください。
とても楽しいですし、承る私も、とても楽しいです。
作品担当 井上英樹