稀少な紫根染と茜染~岩手・南部に伝わる絞り染め~

画像元: 千成堂着物店公式通販サイト/みちのく白鷹の里工房謹製 漢方染 紫根染の名古屋帯

着物好きの心を掴む、岩手・南部の紫色・茜色

南部の紫根染の反物に心を奪われた作者が描いた小説『晴れ着のゆくえ』には、孫娘のために紫草を育て、晴れ着として仕立てられた紫根染の着物と、茜染の長襦袢が登場します。

赤味のある上品な紫の着物の袂から、ちらりと覗く茜色。なんと美しい組み合わせでしょうか。

天然染料ならではの落ち着きのある色味と絞りの素朴さは、私自身が自分で着物を着るようになった当初は見向きもしませんでした。その魅力に気づくのは、着物にどっぷりとハマってから。

しかし、なかなか目にする機会はありません。

 

紫根染が稀少な2つの理由

画像元:千成堂着物店公式通販サイト/みちのく白鷹の里工房謹製 漢方染 紫根染の名古屋帯

南部の紫根染に限らず、紫根染のお品に出会うことは、呉服に携わるものでも稀です。

それには2つの理由があります。

栽培の難しさ

紫根染の原料となる紫草は、現在環境省の絶滅危惧種に指定されています。

『万葉集』に詠まれるほど古くから日本に自生していますが、移植するのも実から発芽させるのも大変難しい植物です。

また、同じ土地での連作ができないため、染色用に大量栽培するには不向きとすら言えます。

現在では輸入された紫根も染料として使われています。

染色の難しさ

紫は特に温度に繊細で、通常60度くらいで染色されるそうですが、温度が高いと青黒く暗い紫になってしまいます。

また媒染剤にも注意が必要で、アルカリ性のものを使うと、やはり青黒い紫になってしまい赤味のある紫とはなりません。

 

 茜染もまた染色が難しい

出典:千成堂着物店公式通販サイト 茜染絞り九寸名古屋帯 / 茜色 × キューブ 幾何学文 全通柄 / 米沢 季織苑工房 

上村六郎氏の『日本の草木染』によれば、茜染も紫根染同様に専門家でないと難しい染めの一つだそうです。

古い茜根を使うと美しい色は出せません。媒染や染色を何度も何度も繰り返し、ようやく私たちのイメージする茜染の赤色となります。

茜染の技法も手間がかかり、美しい澄んだ色に染めるのが難しく、中世の終わり頃から廃れていた時期もあります。

 

南部地域の紫根染の歴史

 

かつては日本各地に紫草が自生しており、紫根染も各地で行われていました。しかし紫根染といえば、南部のものが有名です。

その南部紫の歴史をご紹介致します。

江戸時代以前

中国前漢の武帝が紫色を皇帝の色として「禁色(きんじき)」とし、日本でも聖徳太子が制定した官位十二階では紫色はもっとも高位な色とされました。

この紫を尊ぶ風潮は平安時代、鎌倉時代、江戸時代と時を経ても続いてきました。

南部地方には鎌倉時代以前に伝わリ、京紫、江戸紫と並び
三大紫と称されました。

出典:盛岡バーチャル博物館

南部の地域にも鎌倉時代より前には伝わっていたようです。

江戸時代-紫根染最盛期-

江戸時代には、良質な紫草が採れるとして「南部紫」が有名になっており、紫の産地を表すために「京紫」「江戸紫」という呼称ができました。

『日本の色辞典』(吉岡幸雄著/紫紅社)には、南部紫の品質の良さが伺えるエピソードが紹介されています。

江戸時代・宝永年間(1704~0711)に京都の僧侶が江戸の町で出会った紫色の美しさに感心し、京都の染屋に尋ねて回って染工場を作りました。しかしすぐに変色してしまい、南部藩では上質な紫を産出していると聞きつけ、わざわざ出向いて栽培法と染色技術の教えを請うたそうです。

紫色は江戸庶民にも人気がありましたが、紫根染の紫が高級なためか、別の染料で染めた「似紫(にせむらさき)」なども登場しました。

明治時代-化学染料の登場による衰退-

明治時代に入ると、海外から輸入された化学染料の登場によって、高価で扱いの難しい紫根染の需要は激減しました。

このとき、南部紫の技法などは一度完全に途絶えています。

 大正時代以降-紫根染の復活と発展-

第一次世界大戦の影響で、海外からの染料輸入が途絶えることとなり、再び国内での染色を復活させようという機運が高まりました。

秋田県花輪地方に残っていた技術者から学び、独自の技法も開発、大正7年(1918年)には『南部紫根染研究所』を設立、当時紫根染の研究を行っていた藤田謙氏を主任として招聘し、紫根染の新たな発展が模索されました。

昭和8年(1933年)に藤田謙氏は独立し、『草紫堂』を創業しました。『南部紫根染』『南部しぼり』は商標登録され、現在にその美しい紫を伝えられています。

 

 南部の紫根染ができるまで

画像元:歌舞伎総合公式サイト 歌舞伎美人かぶきびと

工程について文章にすると下記のような簡単なものですが、実際にはそれぞれの工程にさらに細かな工程があり、完成するまでに数年の年月を要します。

筆者は以前、ほかの天然染料で染色体験をしましたが、1度の染色ではごくごく淡い色にしか染まらないことに驚いた記憶があります。

濃い紫を染めるまでに、いったい何回染色を繰り返すのかと思うと、恐ろしいほどです。

 

・下染め 媒染液に漬け、脱水・乾燥させる

・枯らし 媒染液を生地に定着させるために半年以上置く

・型彫り 柿渋を塗った和紙に図柄を描き、切り抜いて型紙を作る

・型付け 生地に型紙をのせ、青花液で図柄を描く

・縫い絞り 図柄に合わせて職人が一つひとつ糸を巻き付けて絞る。図柄によっては1年以上かかる

・紫根搗き 水に浸した紫根を臼で搗き、色素を取り出す

・抽出 紫根を熱湯に浸して濾す

・染色 濃い色に染まるまで繰り返す

・乾燥 染めあがった生地を乾燥させる

・絞り解き 絞った糸を解いていく

・寝かし3年~5年寝かせて初めて南部紫の色となる

参考:盛岡バーチャル博物館

 

物語と共に伝える着物・帯として

落ち着きがあるのに、その絞りによって華やかさも感じられる紫根染。

年齢と共に敬遠されがちな赤色でありながら、どんな年代の方が身に着けてもなじむ茜染。

年月と共に変化する表情を楽しみながら、染めの物語と共に子や孫へ伝える着物としても素敵なのではないでしょうか。

 

参考文献

日本染色地図 朝日新聞社 昭和60年6月1日
日本の草木染(新装版) 上村六郎著 京都書院 平成元年5月24日
日本の色辞典 吉岡幸雄著 紫紅社 2000年6月20日
むらさき染に魅せられて 大河内ただし 社団法人農山漁村文化協会 2012年3月20日
晴れ着のゆくえ 中川なをみ 学校法人文化学園文化出版局 2017年2月26日

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